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自作ゲームフェス5

ノベルスフィア賞 全件レビュー 前編

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編集部のsuzukiです。
お待たせいたしました…全件レビューになります! ノベルスフィア賞の選考対象作品をすべてレビューしていきます。
しかし……すみません!! 思った以上にてこずり、前後編で分けての投稿とさせていただきました。今回は以下をレビューしています。

(順不同)

クリエイター・ユーザー両者にとって参考となるレビューを心がけましたので、ぜひ自分の気になっている作品以外もみてみてください。
それでは、続きからどうぞ!

Theo Sophia-Episode Ⅰ:Beyond Good and Evila

PLAY:
http://www.theosophiaz.com/#!download/ce2r
制作者:
川乃雅慧



絵・グラフィック・シナリオのクオリティはとても高く、オリジナリティもあり、何より熱意がガンガンと伝わってきます。この‟熱さ”はなかなか出せるものではありません。その意味で、各要素の商業並のクオリティと、同人の武器ともいえるアクの強さを双方持ち合わせています。
あと一歩ユーザー目線を取り入れるとプレイの満足度は大いに高まるかと思います。システムに対して強い想いがあることは伝わってきますが、もう少しユーザを意識すべきだったかと思います。LOGOSシステムは没入感をむしろ下げてしまっています。オートモードに向いたシステムですが作中では利用方法が提示されておらず(実はショートカットキーから起動可)、その点でももったいなかったです。ENGIシステムは汎用性が高く面白いです。

レンジできゅんしてっ

PLAY:
http://rkyun-uracon.parseapp.com/
制作者:
uracon



Twitterのアカウントと連動し、フォロワーから攻略対象を選択し、その他のフォロワーとふれないながら仲を深めていくアイディア重視のノベル。自分が最近使ったキーワードや別のフォロワーが登場し、現実とリンクする驚きや面白さとともにシナリオを進めることができます。
単語の抽出によるシナリオと現実とのリンクに限界があり、開始時点での驚きがピークになってしまっているのが残念です。ユーザの満足を追求するよりはむしろ、プロモーションなどで利用する"BtoBtoC"の形がより適していると感じました。個人情報と物語を融合させて読者を引き留めることができるのは広報分野においては強い武器です。

歌舞り者。

PLAY:
http://www.freem.ne.jp/win/game/9153
制作者:
茶々留



探索パートが存在しノベルのフォーマットからやや離れる部分もありますが、クオリティ・オリジナリティは素晴らしいの一言です。先が気になる奇妙なシナリオを、魅力的なグラフィックがうまく牽引しています。凝ったUIも作品の調和にしています。実況されることを意識されているようにみえ、アクの強さを持ちながらもユーザーが意識されていると感じました。
探索パートが没入感を高める反面、テンポを失う要因にもなっていたかと思います。見た目の印象はピカイチなので、それを使いグッとユーザを引き込みつつ、たたみ込むようなスピード感・エンタテイメント性があると引き締まると感じました。

Alice in Dreamworld

PLAY:
http://www.freem.ne.jp/win/game/7437
制作者:
ふしぎの国ねこ横町さん番地



夢の世界に迷い込んだ主人公が危険なゲームに巻き込まれるという導入のノベルの体験版。
インディー作品を大きく「やりたいことやるぜ」派と「プロに近づきたいぜ」派に分けるとするならば、純然に後者に属する作品といえます。フルボイス・美麗なイラスト・自作BGMと、商業で必須とされる要素を取り揃えています。ユーザーは見た目で「その作品が安心してプレイできるか」を判断しがちなので、見た目にそつがないノベルというのはプレイ前から大きなアドバンテージを得ているといえます。今回は無料部分のみでの評価としているため受賞には至っていませんが、今後のストーリー次第では十分に受賞を狙えるレベルだったと思います。
減点がない反面、いささか優等生的な作りすぎるという印象も持ちました。体験版ではストーリー導入とキャラクター紹介が行われましたが、もう少し乱暴にでも、作品の魅力をぶち込むと製品版への興味が増すかと思います。「同人なのに商業レベル」という押しは(残念ながら)この時代それほど有効に機能しません。分かりやすくユーザーが興味をもつ魅力を提示することが大事かと思います。

ソラミミ×DIAMOND

PLAY:
http://www.freem.ne.jp/win/game/7719
制作者:
ミルチァンゲーム



前回のノベルスフィア賞において優秀賞を受賞した作品に要素が追加されたものになります。
内容は前回と変わらず、OP・アイキャッチが新規に追加されています。確かにこれらはどこか雰囲気がズレるところがあるのですが、コラージュの意匠が取り込まれた独特の作風なので、単なるミスマッチと断じられないところがあります。個人的には、初音ミクはいささか手垢がつきすぎているので避けたほうが良かったかなとは思います。

ソラミミ×DIAMOND[第2話]

PLAY:
http://www.freem.ne.jp/win/game/8345
制作者:
ミルチァンゲーム



前回のノベルスフィア賞において優秀賞を受賞した作品の続編。前作同様、作り込まれた独特な雰囲気を堪能できます。
『魔法少女まどか☆マギカ』の魔女戦を強く想起させますが、文章のクセの強さ分、尖ったものになっています。
しかし、想起させるものがあるためかオリジナリティが相対的に薄まり、前作に比べると丸くなった印象を受けてしまいました。
主人公もやや常識的な思考を持っており、もう少し読者を置いてきぼりにしてもいいのかなと感じました。
その意味で、制作する上で非常にバランス感覚が難しい作品だと思います。
とはいえオリジナリティが不十分というわけではなく、絵と画家のくだりなどゾクゾクする展開があります。前作のファンは安心してプレイできると思います。

夢…けさないで、砦。

PLAY:
https://novelsphere.jp/ns00000083
制作者:
ミルチァンゲーム



詩にノベルゲーム要素をミックスした異色作品。ノベルスフィアでも公開されています。
非常に独特な作風で人を選ぶ作品ではありますが、"まとまり"という意味では緻密な仕上がりになっています。本文である詩は抒情的で一見理解不能にみえますが、かすかに意味の繋がりが感じられるハイクオリティなものになっています。グラフィックや朗読は詩に合致したものとなっており、魅力を高めています。特に朗読は、心に訴えてくる力を感じます。
完成度は受賞レベルにありますが、ニッチさに相殺され、惜しくも選外とさせていただきました。技術的ないし内容的にもうひとつ仕掛けが用意されることを期待してしまいます。

セカイノミカタ

PLAY:
http://sekai-no-mikata.jp/
制作者:
sugiya



姉の取った不思議な行動を軸に謎を追っていく群像劇風のミステリ。マルチプラットフォーム対応です。
音楽や喫茶店という舞台設定などから、雰囲気を大事にしていることが伺えます。挿入されるムービーも気合が入っており安定感を感じさせます。
一本道のミステリで、後半の怒涛の伏線回収はまさにミステリの面目躍如といったところでした。
一方で、序盤の「引き」が弱いかなという印象がありました。魅力的な設定や伏線が用意されますが、淡々と陳列されていくように感じられました。たとえばリュックサック教は怪しさを感じさせますが、視覚的にそれを強めることも可能だったと思います。喫茶店を中心に進み雰囲気の形成の一助になっていましたが、動きを少なくしてしまう要因にもなっていたかと思います。

伝奇巨大ロボットロマン アトの世界

PLAY:
http://www.freem.ne.jp/win/game/8778
制作者:
uma



神器をモチーフにした巨大ロボットモノ。題材には魅力を感じます。
これだけ贅沢に一枚絵が用意されている例は他にあまりありません。それぞれのクオリティも決して低くなく、動きの多いバトルものなのでありがたいです。この点はハッキリとした強みです。
しかし、文章は改善の余地があるかと思います。情景が頭に描きづらく、唐突な場面転換でさらに混乱します。シナリオの大筋は王道といっていいと思います。この手の題材は設定や筋が多少強引であっても、気持ちの良い展開なら許されるものです。しかし、文章のテンポの悪さが「気持ち良さ」にブレーキをかけてしまっており、もったいない印象でした。
一枚絵がこれだけ潤沢にあればあるいは立ち絵がなくてもいいと判断したかもしれませんが、立ち絵やアイキャッチを挿入するなどして、シナリオを補佐するだけでも大きく印象は変わるかと思います。

ウソツキ勇者

PLAY:
http://www.freem.ne.jp/win/game/8864
制作者:
手塚ユキア



「勇者はなぜ魔王を殺したと嘘をついたのか」を軸に、かつてのパーティーたちの口から勇者の真意に迫るノベル。
話の骨格はいわゆる「勇者魔王モノ」のツボをきちんと押さえています。登場するミニチュアキャラもかわいいです。しかしながら、全体として今一歩と感じました。
勇者の謎→魔王の謎とシナリオが広がるところは「勇者魔王モノ」として正攻法で良いのですが、途中でオチに気付いてしまうこともあり、中盤以降シナリオ運びが停滞している印象でした。視点を増やしてミスリードを誘う、波乱を設けるなど、もう少しダイナミックに進行するとよかったと思います。
テキストレイヤがあちこちに移動する手法は面白いですが、現時点ではその魅力はわずらわしさとの間で相殺されていたように感じます。シナリオからテンポを改善し、演出をそのテンポに合わせていくと完成度は高まるように感じました。

たそがれの街

PLAY:
http://tenclaps.com/tasomachi/?page_id=28
制作者:
TEN



使用しているエンジンは独自開発のようで、batファイルからの起動にとっつきにくい部分はあるものの、基本的な機能は不足なく動いています。もう少し独自エンジンならではのメリットが出せるといいかと思いました。
グラフィックは個性的ながらも丹精で、背景まで雰囲気を合わせているのは素晴らしいです。ただ背景数が少ないためか、画面作りに小回りが効いていない印象でした。目立った演出もないのでシナリオに評価の比重が置かれますが、ややクセはあるものの読みやすい文章だったといえます。ただ、凶悪さをレッテル貼りされた被差別者であるはずの主人公は健気で暴力性が微塵も感じられない造形で、物語の筋が見えづらい印象でした。「偏見」を軸にするのなら、プロローグでは第三者の視点で主人公を評するなど、分かりやすい骨組みの提示があると良かったかと思います。

西暦2236年

PLAY:
http://www.melonbooks.com/index.php?main_page=product_info&products_id=IT0000179031
制作者:
もきね



今回は無料部分のみの評価ということで、基本的には前回と同評価となります。
演出に類まれなオリジナリティを発揮しつつ、シナリオは知的かつ盤石であり、製品版では強烈な読後感を得ることができます。フリーノベルに物足りなさを感じる方には強くオススメできる作品です。

僕とニナ。

PLAY:
http://www.freem.ne.jp/win/game/9113
制作者:
ころん



繊細でありながらどこか芯の通った文体が強く印象に残りました。小手先のテクニックでなんとかしようというものではなく、書きたいものにひたむきに立ち向かったというエネルギーを感じます。この文体は作者の方の大きな魅力だと思います。
「幻覚作用のある薬で生み出す彼女との生活」というモチーフが文体と合致しており、鬱々とした展開に引き込まれます。主人公が危険な状態にあろうと、主観で語られるため主人公が気付こうとしない限り隠されてしまうという、このもどかしさはノベルゲームならではといえます。
しかしながら、演出・グラフィックは淡泊だと言わざるをえません。テキストは読まれない限り魅力を伝えることができません。文体の魅力は作品の魅力を底上げこそしますが、顔になりにくいのが現実だと感じています。分かりやすい""顔""を用意すると読者はついていきやすくなるかと思います。題材的にも演出のしがいがあるものだったと思います。

レシオハーバーへようこそ

PLAY:
http://www.vector.co.jp/soft/dl/winnt/game/se509811.html
制作者:
ミルチァンゲーム



不思議なアパートで起こる出来事が淡々と語られてる短編ノベル。
ノベルゲームはこの種の「違和感」、「うっすらとした狂気」を表現するのにとても適しています。このノベルも奇妙な読後感を得ることができ、きらりと光る魅力を感じます。その意味では、やりたいことがきちんとできていると感じました。
グラフィックのチープさが、ある種の違和感やおぞましさに繋がっていくのですが、そこに気付くまでに多くの読者が振り落とされてしまうのが惜しいです。特にインディーの作品は、チープな見た目をそのままに受け取られがちです。この仕掛けであるならば、「作り込んだ手抜き」であることを意識させることが読者を引き留めるうえで重要かと思います。

惑星開発姉弟のハロウィーン

PLAY:
http://bit.ly/1BQQc19
制作者:
ムノニアJ



ハロウィーンを中心に描かれるSFノベル。
背景、立ち絵、音楽いずれもなく、黒背景に白字のテキストが延々と流れていきます。ここまで要素を削ると本や電子書籍と比したメリットが少なく、相対的にディスアドバンテージとなっています。
SFこそ絵や音楽による補助が活きる分野です。文化の差による悲哀もあまり伝わらず、多用される専門用語の理解も進みませんでした。独自の世界観があり、その上で物語が動くことはとても楽しいはずのものです。その楽しさをユーザーと共有しやすくするだけで、作品の魅力は底上げされるかと思います。

あたしのふぁーむ。

PLAY:
http://www.freem.ne.jp/win/game/8947
制作者:
飛電モート



牧場を守るために品評会で優勝することを目指す選択肢重視のアドベンチャーゲーム。
ストーリーに合致した、まさしく牧歌的な雰囲気はとても良いです。朗らかな気持ちでゲームを進めることができ、プレイする上でストレスはありませんでした。
グラフィック、シナリオ、ゲーム性、いずれも物足りない部分はありましたが、愛をこめて作られているのが伝わってきます。このようなエッセンスは出そうと思って出せるものではなく、武器になりえると感じました。
ほかの著名なフリーノベル/フリーアドベンチャーゲームを研究し、丁寧なゲーム作りを続けられることを期待しています。

次回更新は10/2(金)

次回更新の全件レビュー後編は少しあけまして10/2(金)を予定しております。
よろしくお願いします!