ノベルスフィア賞 選考座談会 総評編
編集部のsuzukiです。「選考座談会」、ついに最後となります。
一週間ズレての投稿、申し訳ありません…
今回は選考を終え、総評を話していきます。
それでは、続きからどうぞ!
編集部員紹介
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笠井。編集長。
自他ともに認める鍵っ子にして、ノベルゲームに魅せられた男。「ノベルスフィア」を切り盛りする運営力・技術力を併せ持ち、ノベルゲーム愛の心で編集部を取り仕切る。
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M。編集部員その1。
同人・商業問わずノベルゲームを日々読み漁り、豊富なプレイ経験を土台にした評価には定評がある。読者目線を忘れず、作品への没入感を重視する。
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suzuki。編集部員その2。
広く浅く変なものを探しており、現在はノベルゲームの持つ不思議な魅力に興味津々。「ノベルスフィア」ではスクリプトも担当し、構造的な方向からの評価を好む。
この‟幅広さ”は、実はもう少し分解できるかもしれない
- 笠井
- それでは、すべての受賞作品の選評も終わったところで、最後にまとめという形で話をしていきましょうか。どうだった?
- M
- はい、前回同様、粒ぞろいの選考しがいのある内容でしたね!
- suzuki
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作品数としても約450作品中ノベルゲームは42作品と、前回とほとんど同規模でした。ノベルゲームはいまだ一大勢力といった形ですね。
受賞作品を改めて見ても、幅広い作品が揃っています。
- 笠井
- そうだね。でも、僕はこの‟幅広さ”は、実はもう少し分解できるかもしれないと思っているんだよね。
- suzuki
- というと?
- 笠井
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今回多くの作品をプレイして、「良い作品」には2つの制作傾向があるかもしれないと思った。
一方は絵・音・シナリオを丹精に仕上げ、重厚で完成度の高い物語に仕立てる多人数向きの制作。他方はオリジナリティやアイディアを重視し、雰囲気のある‟一点モノ”を目指す少人数向きの制作。乱暴な話なのは承知だけど、一定、当てはまる部分はあると思うんだよね。
- M
- なるほど。「CyberRebeat」は多人数制作的、「PでCなカレ」は少人数制作的、という感じでしょうか。
- 笠井
- うん。そして、もちろん少人数制作/多人数制作でそれぞれ素晴らしい部分はあるのだけど、その‟中間項”がとりわけ快作になりやすい気がする。「良い作品」の一歩先に行くためには、この点を考えるのも手かもしれないと思った。
- suzuki
- なるほど。その観点でいうと、「牟奄-ムエン-」は多人数制作タイプから中間項へのアプローチ、「雨雲」は少人数制作タイプから中間項へのアプローチという形になりますね。「牟奄-ムエン-」は多人数による制作である一方、強力なコンセプトワークとマネジメントのもと、魅力的で統一的な世界観を保持し、想像の余地を残すプロットでプレイ時間を縮小しユーザーの敷居を下げています。一方「雨雲」は少人数による有機的な制作を行いながらも、感慨を与えるに十分なプレイ時間を持ち、なによりエンタテイメント性を意識した作りになっています。
- M
- 結果をみると確かにそうですね。選考中は言葉として意識していませんでしたが、思い返すときちんと笠井さんのいう感覚は共有できていた結果かもしれないですね。
- 笠井
- もちろんノベルゲーム作りのノウハウって無数にあると思うのだけど、考え方としては一定参考になるかなと思っています。
良いところが強く出てて、見せたくない部分がうまく隠れている作品なんですよね
- M
- 全件レビューと称して、ノベルスフィア賞の選考対象全42作品へのレビューを行うことにしたのも、ノベルゲーム作りの参考にしてほしいと思ったからですよね。
- suzuki
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そうですね。小説って、たとえば新人賞に応募するなどして、第三者による審査が簡単にできる環境がすでに出来上がっているじゃないですか。しかしノベルゲームをみるとステップアップの環境がそこまで成熟していない。まして、ときにアイディアを出しときにダメ出しをする「編集者」もいない。僕はこういう現状があまり良くないなと思っていて。
本人が気づいていなかったり気づいていても見て見ぬフリをしている改善点に触れて、建設的な意見が出すところがもっとあってほしいなと。微力ながら、私たちがその役割の一端を果せたらなと思っています。
- M
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選外とさせていただいた作品にも、素敵な作品はいっぱいありましたからね。例えば「セカイノミカタ」は個人的に推してましたし。選考を進める中で「こうしたらもっと良くなるかも」って部分があるのは確かにそうで、そこを共有できたらなというところで話が決まりました。
面白い! すごい! って思う作品はすごく簡単に言うと、良いところが強く出てて、見せたくない部分がうまく隠れている作品なんですよね。武器はあるのにそれが埋もれてしまっている作品が少なからずあって。あくまで私たちの見方で、という前置きはついてしまいますが、参考にしていただければと思っています。
- suzuki
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ぼくは「僕とニナ。」好きでしたねぇ。
現時点で全件レビューは制作中で、これがなかなか大変なのですが……(汗) 皆さんのお役に立てる・興味が持てる内容になるようにがんばります。
ノベルゲームはまだまだ未成熟で、それゆえにまだまだ変われる
- 笠井
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特に今の時代、「良いノベルゲーム」と「丹精なノベルゲーム」が必ずしも一致しないということも触れなければならないと思う。「文字を読む」って行為はここ10年でどんどん形を変わっている。今までは文字を読むって、良い意味でも悪い意味でも、孤独なことだった。
僕は昔「AIR」をプレイして死ぬほど感動したんだけど、次にしたことは寝ることだった。感情を発散する場所がなかったんだよね。今だったら、twitterで「AIRは神」とつぶやき、レビューを夜が明けるまで探して、場合によっては生放送で不特定多数に声で感想をバラまくかもしれない。
- suzuki
- 孤独に文字を読む必要がなくなったともいえるし、孤独に文字を読むことができなくなったともいえますね。
- M
- 確かに、スマホで電子書籍読んでいるときとかも通知とかバンバン来ますしね。コミュニケーションが簡単になっている反面、作品に没入しにくい環境になっているかもしれません。
- 笠井
- 「コンテンツ業界」という広い言葉でみれば、そういった環境の変化にしっかり対応していると思う。ソシャゲが代表的な例だよね。でも、急激すぎて取り残された作品形態も少なくない。残念ながらノベルゲームもそのひとつだと思う。
- suzuki
- 攻略サイトやレビューサイトの決定版が出てきて、それに呼応するように泣きゲーが代表するシナリオゲーが隆盛し――というのもノベルゲームが時代に合わせていったともいえますよね。しかし、その次の段階の変化というと、確かにぼやけてしまう印象です。
- 笠井
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これはノベルゲーム界だけではなく、出版業界でも起きている問題だよね。小説なんかは、ノベルゲームよりはるか昔からあの形態を保ってきているから、堅牢でまだまだ頑張れている分、同時に変革が難しい。
一方ノベルゲームは漫画や小説に比べるとまだまだ未成熟で、それゆえにまだまだ変われると思う。この世の中でノベルゲームがどう生き残っていくか。僕たちも一緒になって考えていきたいね。
- M
- 私は昔ながらのノベルゲームも大好きですが、やっぱりノベルゲームの話をすると「変化していない」「化石だ」なんて話が出ますよね。でも、今回のノベルスフィア賞受賞作のラインナップをみると、悲観ばかりするような状態ではないと思います。どうすればプレイしてもらえるか、どうすれば面白くなるかが練られた魅力的な作品がいっぱいあります。「Space to go」や「マヂヤミ彼女」の工夫の仕方は分かりやすいですが、「PでCなカレ」や「姫君は優雅に推理する」など、物語のライトさ・入りやすさを意識した作品も多かったですね。
- suzuki
- そうですね。特に「マヂヤミ彼女」の前半部分は現代のノベルゲームとして完全に成立している、素晴らしい没入感だったと思います。漫画はcomicoを中心に様々な試みがなされてますし、映画は興行収入規模でみてもまだまだ元気です。ノベルゲームも負けじと、強みを生かしつつ時代に合わせた作品が増えてほしいですね。
- 笠井
- もちろん、作品だけじゃなくてその外側、プラットフォームや開発環境も充実していなければならない。ノベルゲームは「ゲームのような絵本のようななにか」という曖昧な形だから、どうしても焦点がブレやすい。僕たちも帯を締めなおさないといけないね。
自作ゲームフェス2016について
- M
- 全件レビューは表の形での掲載を予定しているので、座談会としては今回で最後ですね。選考は大変ですが、今回もとても楽しくさせていただきました。
- suzuki
- 今回頭でっかちな話が多くて、退屈な人もいたかもしれませんが、総評ということで許してください。色々話してきましたが、「素敵な作品をありがとうございました、次回も楽しみです」というのが、一番伝えたいことです。
- M
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そうですね。
特に次回に関していえば、自作ゲームフェス2016から有料作品の応募も可能になりましたが、有料作品が比較的多いノベルゲームにとっては大きな変更点だと思います。次回も素敵なノベルゲームとたくさん出会えると思うと今からワクワクしますね。
- 笠井
- 作品の幅がどのように変化するか楽しみだね。今回も有料作品部分を持つ作品はいくつかあったのだけど、無料分を評価対象としたので、少し残念な気持ちもあった。それが改善されるのは単純に良かったと思う。自作ゲームフェスの本体の方では有料部門・無料部門を分けるようだけど、ノベルスフィア賞も基本的にはその形を考えています。
- suzuki
- また詳細は公式の進展に合わせてつつ、追って連絡していきたいと思います。
- 笠井
- それでは、自作ゲームフェス5ノベルスフィア賞選考座談会、これにて終了とさせていただきます!
- 三人
- ありがとうございました!
全件レビューは9/11(金)更新予定
ありがとうございました!
次回は全件レビューを掲載予定です。お楽しみに!