【自作ゲームフェス2021】ノベルスフィア賞 受賞作発表
ノベルスフィアニュースをご覧の皆様、ご無沙汰しております!言われる前に言ってしまうと、一年越しの更新でございます!ノベルスフィア編集部のAkemiです!
はじめに
ということで!年イチの更新になってしまっている弊ブログではございますが、今年もこの季節がやってまいりました。
例年と同じく、ノベルスフィアの運営会社である株式会社言語社は、ドワンゴ様が主催する自作ゲームの祭典、「ニコニコ自作ゲームフェス」に協賛をさせて頂いております。
ニコニコ自作ゲームフェス2021の結果発表記事はこちらからどうぞ!
本記事では、その協賛企業賞である「ノベルスフィア賞」に選出させていただきました作品のご紹介、そしてノベルスフィアの独自賞である「のべるちゃん賞」の発表をさせていただきます。
こちらは、一昨年にノベルスフィアの運営会社である「株式会社 言語社」が運営を引き継ぎました「Script少女 のべるちゃん」を制作に使用したノベルゲームの中で優秀だった作品にお贈りする賞として、今回のニコニコ自作ゲームフェスにあたって昨年から新設された内部賞となります。
のべるちゃん賞につきましては、「のべるちゃん大賞」「のべるちゃん優秀賞」の二作を該当作とし、本記事で表彰させていただきます。
つまり、計三作品を本記事で表彰させていただくかたちとなりますね。それでは、受賞作品の発表と、審査員による選評をどうぞ!!!受賞者のみなさま、おめでとうございます!!!
ノベルスフィア賞受賞作品『【WEB連動ホラー】パルフォン』
- 制作者
- HIJIKI 様
- 作品URL
選評
本作は架空の通話・実況アプリのPalphone(パルフォン)を舞台に展開される、【WEB連動ホラー】を標榜した推理アドベンチャーです。
少し特異なゲームシステムを採用しているため、まずはその説明から始めさせていただきます。
主人公、つまりプレイヤーはとあるオカルトウェブメディアの編集長の手伝いとして、編集長の指示に従って調べ物をすることになります。その結果を編集長に報告をしてゆくことで物語が進行していきます。
調べ物の対象になるサイトはゲームの外、現実のウェブ上に存在していて、プレイヤーはいくつかのサイト、およびTwitterを行き来しながら真相に迫ってゆくことになります。これが本作が『WEB連動型』推理アドベンチャーたるゆえんと言えるでしょう。
このゲームが公開されているアツマールにアクセスするようなプレイヤーの方は、きっと日常的にウェブ上での調べ物を行っていることかと思います(そもそも、このゲームにたどり着くこと自体が一種の「調べ物」であると言えます)。そういった意味で、このゲームのプレイヤーの間口は非常に広いものであると言えるでしょう。
いつも行っている行為がゲームの一部になり、そしていつの間にかホラーの世界に引きずり込まれている——その誘導が非常に巧みで、プレイヤーへの気遣いの細やかさでは今回審査した作品の中でも随一でした。また、特殊なギミックを用いているにもかかわらず、ゲームとしての体験がそのギミックに全く振り回されているところがないところは特に素晴らしい点でした。プレイ中のストーリー体験の質が非常に高くまとまっているのは作者のHIJIKI氏の非凡なクオリティコントロール能力によるものだと感じます。
作品の世界のウェブサイトにアクセスする感覚は、ホラーというゲームジャンルも手伝って、名作ホラーゲームとして名高い『SIREN』シリーズを彷彿とさせます。
未プレイの方のために詳細は伏せさせていただくとして、90年代〜00年代風の、個人サイト隆盛期のウェブサイトも登場するのですが、サイト上の文章のテンションも当時のテキストサイト界隈の温度感をよく再現していて、作者のインターネット世界への深い愛を感じる仕上がりになっています。
これもまた作品のネタバレに関わるため伏せざるを得ない部分ではあるのですが、プレイヤーが迫られる『選択』の重さ、そしてその選択にまつわるストーリーテリングの技巧は、純粋なノベルゲームから多少距離のあるジャンルに属する本作を『ノベルスフィア賞』として推すに十分な驚きと楽しさをプレイヤーにもたらしてくれるものであると考えています。
作品のボリュームについては、正直なところ、やや少なめだと感じました。この世界観で壮大な謎解きを存分に味わえる大作をプレイしたいと思ってしまったのも事実ではあります。
ただ、プレイを振り返ってみて、そう惜しく感じるのと同時に、心のどこかを不思議な懐かしさがかすめてゆくのを感じました。遠い昔にこのくらいの規模(もちろん今は亡きFlash製!)のゲームをプレイした気がしたのです。
まだ子供に過ぎなかった自分はその恐怖に大いに震え上がりながらプレイしました。確かこの『パルフォン』と同じくらいの長さで、ボリュームで言ったら少し物足りないけれど、すごく楽しめたような……。
実際、そんな思い出があったのかは極めて微妙なところではありますが、このゲームはそんなありもしない思い出を幻視すらさせるような『昔ネットでプレイした、イケてるホラーゲーム』のオーラを纏っているのです。
最初に書いた通り、スマホ、配信、Twitter……と、登場する小道具は令和的この上ないというのに、心のどこかに残る平成的ノスタルジーが刺激されて、心をざわざわさせてくれる本作。
現代っ子は令和のイマを舞台装置として活かした質のよい謎解き・ホラーを十二分に楽しむことができるでしょう。
ただし、この作品を楽しむことができるのは若者たちだけではありません。かつて低速の回線を必死でつないでFlashゲームをプレイしていた我々も、あの頃の気持ちの片鱗をふたたび味わえるのが『パルフォン』の大きな魅力です。
どんな人でも、特別な感慨を胸に抱きながらプレイできるゲーム。そんなゲームを名作という……そんな価値観もありなのではないか、と思わされる一作でした。
のべるちゃん大賞受賞作品『愚者礼賛』
- 制作者
- Mayo-Cocco 様
- 作品URL
選評
総文字数・60万字超の長編ノベルゲーム。いわゆるフリーノベルゲーム作品としては超弩級のボリューム──それは、この作品を語る上では外せない特徴のひとつですが、ただし、本質ではありません。
特筆すべきは、そのストーリーテリングの巧みさです。
まずは導入。不穏な影が日常をじわじわと侵食していく描写は、読み手の不安を掻き立て、物語の推進力とすることに成功しています。しかしこれは、あくまで助走。この序盤の不穏さは、異世界転移という形で結実します。そう、この物語は「異世界もの」なのです。物語の一大ジャンルとして人気の高い異世界ファンタジーですが、本作もまた、その一角を担うに足る意欲作と感じます。
中盤から終盤にかけて物語はぐんぐんと加速。別世界の理、そこに散りばめられた謎の数々が、生き生きとしたキャラクターたちとともに解き明かされていくさまは圧巻の一言。章ごとに「引き」を意識したつくりも徹底されており、エンターテインメントとしての強度が高いと感じました。
オーソドックスなノベルゲームであるからこそ、物語の旨味を十全に味わえる仕上がりになっている「愚者礼賛」。こうした総合的な完成度の高さを鑑み、本作を「のべるちゃん大賞」としてここに賞します。
のべるちゃん優秀賞受賞作品『神様は夢の跡』
- 制作者
- 苑 様
- 作品URL
選評
「貴方の夢を、一つだけ叶えに来たの」。自殺を図った少年・絃夜の前に現れたのは、神様と名乗る少女・藍。けれども、絃夜には叶えたい夢がありません。藍の勧めに従って、絃夜は自宅にまつわる「思い出」を紐解き始めます。そうして、プレイヤーは絃夜の視点を通して、様々な部屋を調査することに。
探索によって蘇る思い出はどれも、言い換えれば家族にまつわる記憶です。温かみに満ちた幸せそうなエピソードもあれば、一方では辛く苦しいものも。そうしたエピソードの配置と緩急が丁寧かつ巧みでした。探索を進め、物語を追うごとに、プレイヤーは自然と絃夜の人生に没入していくこととなるでしょう。
その絃夜を導く「神様」こと藍のキャラクターもまた魅力十分。その点、本作は絃夜の鎮魂譚であるともに「神様」たる藍の成長譚でもあるのです。序盤こそ謎多き超常的存在として見守りに徹する彼女ですが、物語の進度に応じて語りも多くなり、人間味のある描写が増えていきます。愛らしく優しい人物造形は、ほの暗い本作の世界観において、さながら一筋の光のようでした。
ぜひとも、皆様にもこの物語を最後まで見届けて欲しい。そうした思いから、本作を「のべるちゃん優秀賞」としてここに賞します。
ふりかえって
今年は前年に比べて、多少受賞作が少なくなる結果となりました。
昨年はたいへん豊作だったのだな、と相対的には思いますが、今年の受賞作に上がってきた作品はいずれも粒ぞろいで、別の年でもきっと受賞作品に食い込んできたのではないかとも思ったりします。
今回も審査員としてAkemiも今回もたくさんの作品をプレイさせていただきました。(仕事でゲームができるなんて、なんとすばらしいことでしょうか!……と、毎年思います)
ノベルスフィア関係の受賞作品が少なかっただけで、全体としては非常に豊作でございました。作品の平均的なクオリティは毎年どんどん上がっているのかな、と感じました。各企業賞に上がっている作品はいずれも楽しく遊べる名作なので、ぜひそちらもプレイしてみてくださいね。
インディゲームという概念がかなり市民権を得てきた今日このごろですが、そんな中でゲームの多様性もさまざまに見直されてきているように思います。
(現に、インディゲーム・シーンの中でも影響力のあるノベルゲームが多数リリースされてきましたよね!嬉しいことです!)
そんな多様性の中でノベルゲームもかわらず輝き続けて欲しいな、と思うAkemiでございました。
今回もたくさんの素敵な作品をプレイさせていただき、ありがとうございました!ニコニコ自作ゲームフェス2021に参加された全ての自作ゲーム制作者さまに、改めてお礼申し上げます。
それでは、また次回の記事でお目にかかれましたら幸いです。ノベルスフィア編集部のAkemiでした。