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自作ゲームフェス2020

【自作ゲームフェス2020】ノベルスフィア賞 受賞作発表


はじめに

ノベルスフィアニュースをご覧の皆様、大変大変大変ご無沙汰しております!

ノベルスフィア編集部のAkemiです!

このノベルスフィアニュースも約二年越しの更新ということで、「お前生きてたんか!」という声も聞こえてきそうですが(覚えていてくださりありがとうございます)、Akemiをはじめノベルスフィア編集部は元気にやっております!

記事タイトルにもございますように、本記事は、毎年恒例の「ニコニコ自作ゲームフェス」の大賞発表記事となっております!ノベルスフィアの運営会社である株式会社言語社は、ドワンゴ様が主催する自作ゲームの祭典、「ニコニコ自作ゲームフェス」に協賛をさせて頂いております。

賞について

毎年構成微妙に変わっている本賞なので、今年の賞の構成を以下に改めて示させて頂きます。

  • ノベルスフィア賞 大賞
    • ニコニコ自作ゲームフェスにて『ノベルスフィア賞』とさせて頂いているものと同一のものとなります。その年のニコニコ自作ゲームフェスに参加している作品の中で、最も『ノベルスフィア賞』の求める作品性を満たしているものを選出させて頂いております。
  • 優秀賞
    • 大賞には及ばなかったものの、それぞれ十分な魅力を持ち、称えられるに相応しいと判断した作品に対してお贈りする内部賞です。
  • のべるちゃん大賞
    • 昨年末よりノベルスフィアの運営会社である「株式会社 言語社」が運営を引き継ぎました「Script少女 のべるちゃん」(https://novelchan.novelsphere.jp/)を使用したノベルゲームの中で、最も優秀だった作品にお贈りする賞として、今回のニコニコ自作ゲームフェスにあたって新設した内部賞となります。

ノベルスフィア賞 大賞作品

シニサギ

自殺を考える主人公が、自分の殺害を殺し屋に依頼するノベルゲーム。
他の応募作にも死をテーマにした作品は数多かったが、本作は舞台設定や主人公の心理描写のディティールが特に秀逸だった。「特定のタイミングで殺されるのではなく、いつ殺されるかわからない」という構図がもたらす逼迫感の描写は頭一つ抜けており、プレイヤーを引き込む魅力がある。ブラック企業勤務によって衰弱した主人公(この設定の時点で作者は現在のフリーゲームをプレイするプレイヤー層の感覚をきちんと掴んでいるなと感心せずにはいられない)の心理描写も精緻に描かれており、胸を抉る生々しいまでのリアルさをもって、ますます物語に没入させられるという寸法である。
本作が公開されているプラットフォーム「RPGアツマール」でのプレイ時には、ゲームの進行と並行してプレイヤー達のコメントが表示されるのだが、そのコメントの熱量の凄まじいこと!本作が持つ非凡なエネルギーがわかりやすく可視化されていると感じた。
コメントによる擬似的なプレイ体験の共有により、芯までボロボロになった主人公の姿に心を痛めつつ「いつ殺されてしまうのか」とハラハラする体験。そんな体験がノベルゲームでできてしまった……というのは審査した全ての作品を通して、最も衝撃的な体験であった。
かと言って、暗いばかりの作品でもなく、軽妙なグラフィックとキャラクターの掛け合いにはコミカルで、クスリとできる部分も多々あり、それでいて作品にきちんと溶け込んでいる。
全体として、ノベルスフィア賞を受賞するにあたって十分に魅力的なノベルゲームであった。(ノベルスフィア編集部)

のべるちゃん大賞作品

ネオテスター・ジョン

編集部のsuzukiです。Akemiさんの書く記事ではありますが、この『ネオテスター・ジョン』(以下『ジョン』)の選評だけ、suzukiの署名で執筆いたします。なお、『ジョン』作者である快亭木魚さんは『環状線天使ヤマテ』という別作品もエントリーされています。2つの作品の差異は、作品持つパワーの特異さに比べて些細なものであると考えて選考にあたっています。

なぜsuzukiが書いているか。それは選考会において『ジョン』こそがノベルスフィア賞に相応しいと推しに推し(そして敗北し)たのは、何を隠そうこの私だけだからです。「あんだけ推したならお前が書け」と押しつけ……いえ、名誉を頂戴し、こうして筆を執っているという次第です。
さて、惜しくも大賞を逃した『ジョン』ではありますが、推した私自身が「まぁ、ですよね」と感じざるを得ない問題作です。とはいえ、『ジョン』が素晴らしい作品であることは部内全体の見解であったことは間違いありません。
『ジョン』が素晴らしい作品である――これは冗談でも何でもありません。プレイするとわかるかと思いますが非常にカオティックで、評価が難しい作品です。いわゆるバカゲーであり、ともすればなぜこの作品が選考の俎上に上がったのか不思議に思う人もいるはずです。しかし『ジョン』は、考えれば考えるほど味わいの出てくる、優れた作品であることがみえてきます。

その魅力を語り尽くすことはできないので、今回はノベルスフィア賞の選考基準から掘り下げていこうと思います。
公式サイト上で公開もしていますが、選考基準は以下になります。

ノベルスフィア賞はノベルゲーム・アドベンチャーゲームを専門とした企業賞です。シナリオ・グラフィック・サウンド・システムの個別的な出来栄えや、総合的な完成度、トータルデザインから審査を行います。特に、時代を切り拓く可能性を持つオリジナリティ、読者を物語に引き込むための仕掛け・工夫は高く評価します。

> ノベルスフィア賞はノベルゲーム・アドベンチャーゲームを専門とした企業賞です

『ジョン』は作風こそ破天荒で非常識であるものの、純然なノベルゲームと言えます。テキストと選択肢はゲームの根幹を担っており、アニメーションは多用されていますが演出の範囲内です。

> シナリオ・グラフィック・サウンド・システムの個別的な出来栄えや、総合的な完成度、トータルデザインから審査を行います。

シナリオについて。破天荒な展開ではありますが、ストーリーラインを見失っていない点を高く評価します。この手のシナリオを書こうとした場合、本題が置き去りになってしまったり、ギャグの名のもとに筋自体を崩壊させようとしてしまいがちです。こうした手法は、書き手は楽ではありますが、プレイヤーに徒労感を与え、作品への信頼をなくします。しかし『ジョン』は、破天荒な展開の中でも追える程度の明快なストーリーラインがあり、かつ、ストーリーを盛り上げる障害の準備にも余念がありません。主人公が問題に直面し成長するという、物語の基本を押さえています。
ここだけを切り取っても、『ジョン』が独りよがりな作品ではなく、読み手を意識した作品であることが伺えます。秩序と崩壊のバランスを絶妙に保つ作家性はとても貴重なものだと思います。

グラフィック・サウンド・システムについて。『ジョン』は弊社アプリ「Script少女のべるちゃん」を利用して作られた作品です。現在のところ「のべるちゃん」は、アプリ側が用意したアセットを使うことでノベルゲームを作成します。つまり『ジョン』では、制作者が用意した素材は一つもないことになります。
通常、これは強い制約となるのですが、『ジョン』はそれすらも"作風"として吸収しているといえます。『ジョン』は、異なる雰囲気のアセットから素材を選択し利用しています。これは通常、違和感という負の要素になりますが、『ジョン』にあっては、破天荒な展開にマッチし逆に調和を生むことに成功しています。複数の素材の切り貼りによる演出は、さながら絵画の技法であるコラージュです。アセットしか使えないという制約を、『ジョン』は解決したばかりか、特長にまで昇華させたといえるでしょう。

これは言い換えれば、シナリオとグラフィックが互いにシナジーを産み、総合的な完成度を高めているともいえます。

> 特に、時代を切り拓く可能性を持つオリジナリティ、読者を物語に引き込むための仕掛け・工夫は高く評価します。

この選考基準は、まさに『ジョン』のために用意されたかのようです。
"ノベルゲーム"と"コラージュ"を、カオティックな作風で糊付けしたことは、新規的な試みといってよいでしょう。独特な語り口・キャラ造形・展開・画作りは、マネしようと思ってできるものではなく、オリジナリティに溢れています。

結果、「読者を物語に引き込む」ことに成功しています。たった30分程度の時間であっても、とても印象に残る作品でした。
選考中、『ジョン』の突拍子もない展開に、私は思わず吹き出してしまいました。そうした経験は、なかなかありません。選考する意識では、「笑い」は遠い感情だからです。しかし、そんな状況にあっても(強引に)笑わせてくるパワーが『ジョン』にはありました。
そして、私が吹き出しているのを横目に見ていた、選考に関わっていない技術スタッフに「変な作品がある」とオススメしました。これは何回か選考をしてきましたが初めてのことです。
その技術スタッフと「お気に入りは誰か」「プリコーンかな」「マナー・ウルサだろう」と談笑しながら、この作品の持つ魅力に、私は実感が湧いてきたのです。

ここまで読んだ方がどれだけいるでしょうか。定かではありませんが、ここまで読んだということは、『ジョン』に興味を持っていただけたことでしょう。そして同時に、こう思うのではないでしょうか。「こうまで優れた作品が、なぜノベルスフィア賞ではなかったか」と。その理由をお答えします。
ひとつは単に、ノベルスフィア賞の『シニサギ』が優れていたことが挙げられます。『シニサギ』の現代社会の問題への真摯な取り組みは、これもまた時代を切り拓く作品でした。Akemiさんも同意見でしたが、今回は質・量ともに豊かだったという印象です。これは編集部としては喜ばしいことでしたが、『ジョン』含め、求められるレベルは高かったといえます。
もうひとつは、『ジョン』の骨格である破天荒さが、特長でもあると同時に致命的であったことにあります。『ジョン』の評価は混迷を極めます。このレビューはいわば『ジョン』信者によるものです。​人によってはとても受け入れられる作品ではないでしょう。編集部として推すのはどちらかとなった際に、『ジョン』はどうしても分が悪かったと言わざるを得ません。

別の言い方をしましょう。『ジョン』にノベルスフィア賞を出すことで、表面だけをさらって「ノベルスフィア賞は『ジョン』のような作品を求めている」と誤解される可能性を、どうしても捨てきれませんでした。編集部は『ジョン』のような気骨のある作品を求めているのであり、『ジョン』のような作品を求めているわけではない。この説明は困難で、それを広く明確に伝えることができないというのが、選考から外れた大きな理由だと、少なくともsuzukiは考えています。
突然の長文に面食らった方、すみません。『ジョン』選評は以上となります。私が言い過ぎであるか妥当であるかを、比較的短い作品ですのでぜひご自身でプレイし、ご判断いただければ幸いです。たぶん、半々かな(ノベルスフィア編集部 suzuki)

優秀賞作品

ソライロメモリア

電車に乗って、記憶喪失の少女が記憶を探す物語。
徹頭徹尾、全てが美しい。多少の探索要素があるが、物語を読むことに重きがあり、その情緒性が飛び抜けているため、優秀賞を授賞するに相応クオリティであると判断した。
物語と背景、そして音楽のハーモニーが素晴らしく、世界をとても魅力的に見せることに成功している。
物語も、短い尺(ゲームのページにはプレイ時間は「約15分」とある)の中で上手くまとまっており、破綻がない。疑問には答えがきちんと用意され、その段取りも性急なところがない。
小さくまとまりすぎているという言い方もできるが、ブラウザゲームである以上、プレイヤーの注意を留めておくためにはこれくらいの時間に収めるほうが賢明なのか、とも感じた。
それよりはむしろ、電車の車内やキャラクターのグラフィック、そして魅力的な楽曲などのアセットがこれだけ揃っており、駅を増やせばいくらでも物語を引き延ばせる構造を採用しているにも関わらず、15分で敢えてまとめる贅沢な作りに唸らされた。
トータルで文句をつけるところがなく、15分という短さから誰にでもお勧めできる、ちょっと気の利いた可愛いお菓子のような、誰かに贈りたくなるような、華やかな作品であった(ノベルスフィア編集部)

たましいとカラっぽ

育成ゲーム風ノベルゲーム。主人公は謎の白いニョロニョロ。作中の選択肢によって最終的に主人公が何に変わるか変化する。一週は短く、30分程度で一周できる。ルートによっては物語がほとんどわからないまま終了することも。しかしながら添付のreadmeには、「コンプは非推奨です」とある不思議なゲーム。
良い意味で力の抜けたグラフィックと、PC用のゲーム(吉里吉里製)であるにもかかわらず、スマホゲームを思わせる縦に長いゲーム画面が新鮮で、PCの画面上で起動しているだけで可愛い。立ち絵がまばたきするのも可愛い。音楽も相まって可愛い。
ノベルゲームとしては、吹き出しとテキストウィンドウの使い方が巧みで、会話のテンポの良さが光る。独特の雰囲気がとても心に残り、他の作品にはない独特の魅力を持つ本作は優秀賞に相応しいと判断した。
「何か変わったフリーのノベルゲームを遊びたいな」と探している時にこの作品に出会えたとしたら、きっと素晴らしい経験ができるだろう。(ノベルスフィア編集部)

カペ谷ベル子のベース


高校生の青春を描くノベルゲームは星の数ほどありますが、なかでも本作は王道を真正面から捉えることが出来ているとの印象を受けました。
一風変わったベース弾きのクラスメイト・カペ谷ベル子と、ごく普通の男子高校生である主人公。対極の二人によって語られるストーリーは、恋愛要素を推進力としつつ、主題である「音楽」ひいては「表現するということ」について十二分に描けていると感じます。
その根幹をなすテキストは軽重のバランスがとれており、コメディシーンでは軽妙かつテンポ良く、対してシリアスなシーンでは適度な重さでもってプレイヤーの心を動かしてくれます。
また、ビジュアル素材の選定、各所の演出もこなれており、最初から最後まで安心して物語に没入することができました。こうした全体的な完成度の高さを鑑み、「優秀賞」として推薦させていただきます。(のべるちゃん運営チーム)

ふりかえって

大変嬉しいことに、予期していたよりも、質・量共に豊かだったというのがAkemiの所感です。

昨年、一昨年と、ニコニコ自作ゲームフェスにおけるノベルゲームの存在感は小さくなっている傾向があったのですが、今年は様々なジャンルのノベルゲームが投稿され、クオリティも総じて高く、ノベルスフィア編集部としては大変嬉しいニコニコ自作ゲームフェスとなりました。

今回大賞に輝いた『シニサギ』は、ドット絵で描かれたキャッチーなキャラクターデザインが目を引く作品ですが、このようなアプローチは数年前までのノベルゲーム界隈では極めて珍しいものでした。しかし、(何をもってそう呼ぶかは諸説がありますが)インディーゲーム全体に視野を広げると、ドット絵で表現されたゲームはもはや一大ムーブメントとなり、完全に市民権を獲得しているように思います。

その他にも、今回のニコニコ自作ゲームフェスの参加作品を見ているうちに、「インディーゲーム全体で用いられている表現手法がノベルゲームにも輸入されて新しい表現を生んでいるのでは?」と感じるようになりました。

ノベルスフィア賞で言えば、以前にノベルスフィア賞を差し上げた『ghostpia』は、漫画的表現やノイズの表現を合わせ、ノベルゲームが様々な表現をミックスするパレットとして適性があることを示した作品なのかな、と捉えていたのですが、あれから何年か経った現在、いつの間にかそういった自由なミックスが当然のように行われているというのが、2020年の個人制作ノベルゲームの潮流であると言えるのかも知れないぞ、と、Akemiは思いました(つまり個人の感想です!)。

もちろん、2000年代前半から中盤あたりの、当時「同人ノベルゲーム」と呼ばれていた頃ほどの勢いはありませんが、やはりノベルゲームの「物語を伝える力」は健在であり、よい意味で落ち着いた土壌での上で、今回のニコニコ自作ゲームフェス参加作品のような素敵な作品たちが継続的に作られてゆくことを、Akemiは願ってやみません。

これからについて

最近はノベルスフィアとして目新しい情報をお届けできず心苦しい限りなのですが、のべるちゃんの運営をはじめ、ノベルスフィアの運営会社である言語社全体をもってノベルゲームを作る、そして愛する全ての人のお役にコツコツと立っていくための努力をしていきたいと思っています。

これからも、ノベルスフィアならびにのべるちゃん、株式会社言語社をどうかよろしくお願いいたします。