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自作ゲームフェス5

ノベルスフィア賞 選考座談会 ノベルスフィア賞編

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編集部のsuzukiです。
今回は記事遅れまして申し訳ありませんでした…。

選考座談会、今回はいよいよ大賞であるノベルスフィア賞について話していきます。
それでは、続きからお読みください!

編集部員紹介

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笠井。編集長。
自他ともに認める鍵っ子にして、ノベルゲームに魅せられた男。「ノベルスフィア」を切り盛りする運営力・技術力を併せ持ち、ノベルゲーム愛の心で編集部を取り仕切る。
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M。編集部員その1。
同人・商業問わずノベルゲームを日々読み漁り、豊富なプレイ経験を土台にした評価には定評がある。読者目線を忘れず、作品への没入感を重視する。
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suzuki。編集部員その2。
広く浅く変なものを探しており、現在はノベルゲームの持つ不思議な魅力に興味津々。「ノベルスフィア」ではスクリプトも担当し、構造的な方向からの評価を好む。

プレイを始めた途端、この作品は一気に姿を変える

作品名:
雨雲
PLAY:
http://tyantosuru.web.fc2.com/amagumo/a_game.htm
制作者:
サム

笠井
いよいよ作品ごとの座談会も最後になったね。最後はもちろん、ノベルスフィア賞の「雨雲」になります。受賞おめでとうございます!
M
おめでとうございます! 前回同様、白熱した議論となりましたが、最終的に「雨雲」で満場一致で決定しました。日を置いて改めて考えても、納得の大賞だと思います。
suzuki
そうですね。「雨雲」は一言でいえば“渋い”作品で、それをどう評価するかがポイントになりましたが、最終的には「ノベルスフィア賞を最も授与すべき作品はこれだ」ということで決定となりました。
M
「雨雲」の素晴らしさの一つに、プレイ直後からの強い「引き」がありますね。タイトル画面は曇り空で、タイトルからもあまり内容を想像できないままプレイをはじめましたが、序章の引き込みがすごくて「この作品はきっと面白くなる!」と期待が持てる作りでした。
奇をてらうことなく、「サスペンスの始まり」を打ち上げる開始3分は、まさに序章というべきものでした。

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笠井
「CyberRebeat」や「PでCなカレ」が用意したような端正かつコンセプチュアルなWebサイトではなく、グラフィックも売れ線とはいえない。その意味で、プレイまでの魅力はそこまで強いわけではないんだよね。これはsuzuki君が渋いと評した理由の一つでもある。
しかしプレイを始めた途端、この作品は一気に姿を変える。この辺りの落差に僕はやられた。
suzuki
プレイしてすぐさまグッと作品世界に引き込む、この「瞬発力」は圧倒的でした。何度言ってもいいぐらいに、物語の冒頭は大事です。数多くのフリーのノベルゲームが世に放たれている中で、作品の魅力を伝えるなんらかの「引き」「フック」は必要だと思います。物語飽食の時代に、面白くなるまでに2時間3時間かかるというのはどうしてもディスアドバンテージになってしまいます。
M
「雨雲」もプレイするまでは地味で、もったいない部分ではあります。この作品に限らず、「遊べば面白い! でもそこにたどり着くまでが弱い」という作品って結構多いんですよね。
宣伝みたいになっちゃいますけど、ノベルスフィアみたいに「プレイしたいと思った時にすぐ遊べる」ような形で公開するのも、プレイしやすくする方法のひとつだと思います。ノベルスフィアに「雨雲」のプロモーションノベルを掲載予定なので、この作品に興味を持ってくれる方が増えてくれると嬉しいです。
笠井
これは悲しい話ではあるけど、ノベルゲームのプレイ人口は停滞しつつある。つまり、ノベルゲーム慣れしていないユーザを引き込むことが今まで以上に重要な時代になっていると思う。こういう状況をみても、「どの層にプレイしてもらえるか」を考えたときにやはりプレイ前からプレイ直後というのはとても大きな意味を持つよね。
M
はじめが面白いと、なんとなく最後までやってしまいますもんね。もちろん、「雨雲」は決して冒頭だけの作品ではないです。とはいえ、序盤からグイッと引き付け、謎でけん引し、ジワジワと恐怖を忍び寄らせ、クライマックスで昇華させる。この一連の良質な物語展開は、序盤の下地作りなしにはできなかったと思います。

一つの発想でゴリ押すわけでもなく、多彩ですよね。そして一つ一つが成功しています

suzuki
Mさんのいう「一連の良質な物語展開」を底支えしているのは演出ですよね。「雨雲」を語る上で欠かせません。序盤で存分に見せつけてくれた演出が、物語の随所に散りばめられて感情を揺さぶってくれます。
M
タイミングも素晴らしいですよね。ちょっと変化が欲しい、ちょっと立ち絵演出が続いた、などのここぞというそういうタイミングで、効果的に演出が挿入されます。比較的短い作品でもドシンとした読後感を与えてくれます。
笠井
カメラを通したような、ぼかしを使った演出が印象的だった。構図もいい。こういう映画的な手法はサスペンスホラーに分類できる「雨雲」にピッタリだね。
M
一つの発想でゴリ押すわけでもなく、多彩ですよね。そして一つ一つが成功しています。
作者の方は普段ノベルゲームからやや離れた、ゲーム性の高い作品を制作されているみたいですけど、だからこそ「思いつきそうで思いつかない」演出ができたのかもしれません。
suzuki
驚くべきなのは、技術的にはそんなに難しいことはしていないというところですね。既存のノベルゲームエンジンで十分可能な演出にも関わらず、驚かされる。これには「思いつきそうで思いつかない」という側面ももちろんあるとは思うんですが、なによりタイミング・方法が当意即妙で、気分を盛り立ててくれるところが源泉なんだと思います。

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笠井
枚数を使ったアニメーションでごり押しすることだけが演出ではないと思わせてくれるね。
それに、今まで音や絵を使った特殊演出ばかりをみてきたけれど、通常の立ち絵も本作のストーリーに仕掛けと連動していてこだわりを感じる。これも広義には「演出」といえるね。
M
はい。物語の見せ方にも工夫がされています。群像劇のような形をとっていますが、この物語形式が良い意味で“気持ち悪く”ストーリーとマッチしています。基本的なところですが主要キャラクターは深く掘り下げられていますし、終盤の盛り上がりも意識されています。
suzuki
おまけ要素の作り込みもその一つですね。小さな追加情報が物語に深みを与えています。こういうのは嬉しいですね。

もはやひとつの生物って感じだった

笠井
こうしてみると、「雨雲」がいかにユーザーが楽しむために作られているかが分かるね。絵、演出、システム、ストーリーが相互に支えあって魅力的な作品になっている。ノベルゲームが音・絵・文字による総合的な作品形式である以上、どんなノベルにも何らかの相互作用があるはずだけど、「雨雲」は高いレベルでそれが起きているね。
suzuki
そうですね。「雨雲」は基本的に1人で制作されたようなのですが、その利点が存分に出ていると感じました。つまり、担当領域で分断することなく制作できるんですよね。シナリオとグラフィックとスクリプトが同じであれば、「どんな絵を用意すればどういう演出が可能か」「この演出に対してどのようなシナリオが効果的か」かを総合的に試行錯誤できます。コミュニケーションコストをかけることなく、一番気持ちいいと感じるシーンになるまで調整できるんですよね。
M
なるほど。序章の演出を考えても、絵やテキストが絶妙なバランスで展開されますもんね。
笠井
たとえば「東方project」が典型的な例だよね。ZUNさんが基本的に1人で制作することで、ステージ構成と曲の盛り上がりが一致できる。こういうのは、ある意味で自作ゲーム・同人ゲームならではの制作手法といえるね。
M
自作ゲームフェス4の「牟奄-ムエン-」は総勢21人で制作されていたようなのですが、この辺りも対照的で面白いですね。もちろん「牟奄-ムエン-」の方向性がブレているとは全然思いませんでしたし、むしろかなりしっかりしていました。それに、専門領域から生み出される各要素のクオリティの高さはやっぱり素晴らしいものでした。
suzuki
もちろん複数人で作るメリットも数えきれないほどあります。しかし役割分担をするチームも、例えば使用するノベルゲームエンジンで「何ができるか」を知ることは大事なのかなと「雨雲」をプレイして思いました。

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笠井
「牟奄-ムエン-」のコンセプトワークも目を見張るものがあったけど、「雨雲」はコンセプトワークというより、もはやひとつの生物って感じだった。それぞれ素晴らしい作品だったけど、“良さ”の違いはあるよね。
陳腐な言い方だけど、優れたノベルゲームなんていうのは定義不可能なんだなと改めて思うね。ストーリー上の穴や唐突な選択肢があるなど「雨雲」の弱いところを指摘することは実は簡単だけど、「雨雲」は文句なく優れたノベルゲームなんだよね。粗い部分もある一方で、作品全体が絶妙にまとまっている。
suzuki
大事なのは、「ユーザーが何を求めていて自分に何ができるのか」を考えることなのかなと僕は思っています。「雨雲」はそれができているだけでなく、押しつけがましさがなかったと思いました。
M
作品自体は緊張感もありますしゾワゾワする恐怖もありますが、どこか安心できる部分もあって。それは「雨雲」がとにかく丹精込めて作られているからかなと思います。ぜひ色んな方にプレイしてほしいですね。
笠井
そうだね。それでは改めて、受賞おめでとうございます!

次回更新は8/28(金)

いかがでしたでしょうか。次回は選考を終えての総評をお送りする予定です。
お楽しみに!