ノベルスフィア賞 選考座談会3 「ノベルスフィア賞編」
編集部のsuzukiです。「選考座談会」、第3回となります!
いよいよノベルスフィア賞「牟奄-ムエン-」の選評になります。
なんの企画? という方はこちら。
第1回「佳作4作品編」はこちらになります。
第2回「優秀賞3作品編」はこちらになります。
それでは、続きからどうぞ!
編集部員紹介
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笠井。編集長。
自他ともに認める鍵っ子にして、ノベルゲームに魅せられた男。「ノベルスフィア」を切り盛りする運営力・技術力を併せ持ち、ノベルゲーム愛の心で編集部を取り仕切る。
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M。編集部員その1。
同人・商業問わずノベルゲームを日々読み漁り、豊富なプレイ経験を土台にした評価には定評がある。読者目線を忘れず、作品への没入感を重視する。
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suzuki。編集部員その2。
広く浅く変なものを探しており、現在はノベルゲームの持つ不思議な魅力に興味津々。「ノベルスフィア」ではスクリプトも担当し、構造的な方向からの評価を好む。
すぐに惹かれちゃいましたね。この世界についてもっと知りたくなります
- 作品名:
- 牟奄-ムエン-
- DL:
- http://project-gem.chu.jp/muen/
- 制作者:
- Project GEM
- 笠井
- いよいよ選評も最後になりましたね。最後は、ノベルスフィア賞を授与いたしました、Project GEMさんの「牟奄-ムエン-」です。
- M
- 受賞おめでとうございます! 色んなノベルが集まり白熱した議論となりましたけど、最終的には満場一致で「牟奄-ムエン-」という形になりましたね。
- 笠井
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そうだね。審査員冥利に尽きるのだけど、選考は難しかった。
結果としては、「牟奄-ムエン-」にノベルスフィア賞を授与させてもらったのだけど、全編を通しての“レベルの高さ”が決め手のひとつだったと思う。シナリオ・サウンド・ビジュアルすべてのクオリティが高いノベルは「falling」や「ghostpia」など他にも存在していたけれど、総合力・完成度という点では一歩抜きん出ていた。
- suzuki
- 誤解を恐れずに言えば、プロっぽいんですよね。そつがないというか。開始1分で「この作品はいいぞ!」と確信できるぐらい、安定した実力を感じます。
- 笠井
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開始1分どころか、特設サイトの作り込み方からして僕はそれを感じた。
サイトの作りもしっかり考えられているんだよね。世界観や作品コンセプトを一通り読ませたあとダウンロードさせる形になっているのだけど、伝えたいことを伝えつつ、押し付けがましさが絶妙に押さえられていて巧い。僕は、ノベルはノベルをプレイする前から始まっているものだと思うんだけど、「牟奄-ムエン-」は既にその段階から成功しているね。
- M
- 中華風サイバーパンクな背景と設定、提灯の光が照らし続ける夜の街の退廃的な雰囲気……すぐに惹かれちゃいましたね。この世界についてもっと知りたくなります。ただそこにいる、というだけでどことなく感じる怪しさ。少し怖いけど先が知りたくなるような絶妙なバランスです。ティモンたちキャラクターの服装や音楽も、アジアンテイストで統一されていて隙が無く、丁寧にまとめあげられている印象を受けました。
- suzuki
- 雰囲気自体は特殊で、一般受けするものから一歩ズレているはずなんですけど、作り手が丁寧にレールを敷いてくれているので身構えることなく作品に入れますね。“動く生首オネェ”というあからさまな飛び道具的キャラクターも、逆説的に世界観への緩衝材として機能しています。
- M
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マオは一度見たら忘れられない強烈なキャラですよね。首から上しか書かれていないのに一番表情豊かで、よく動いているのが面白い。この作品、驚きのフルボイスなんですが、マオだけでなくどのキャラクターもしゃべり方や雰囲気が作品のテイストによく合っていたと思います。普段は飛ばしがちなボイスを聴きながらじっくりプレイしました。
異形といえば、怪物もそうですが……世界観にぴったりだと思うんですけど見た目が心臓に悪すぎます! とあるシーンでは全力で連打しました……。
ゲーム性を担保させるだけでなく、実況プレイも意識しているように思えた
- suzuki
- 連打ですか。「牟奄-ムエン-」にはいくつかミニゲームがあるのですが、正直ここは評価が分かれるところだったと思います。基本的には加点だけで減点が存在しない作品なのですが、ミニゲーム部分は、作品と合っていたか微妙なところだと思います。
- 笠井
- というと?
- suzuki
- はい。ここにはノベルゲーム界隈で何度も議論されてきた「選択肢は必要なのか問題」と同種のものがあって、つまりノベルゲームというのはユーザーが「遊んでいるのか」「読んでいるのか」曖昧になりがちなんですよね。受動的に鑑賞しているところで能動的な操作を求められて混乱してしまう、ということはあると思います。特に「牟奄-ムエン-」は導入まで非常に丁寧で、とことん受動的にプレイができるからこそ、ミニゲームの導入はやや中途半端な印象がありました。
- M
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遊んでいるのか読んでいるのか、ですか。作品の重苦しい雰囲気と、急かすようなミニゲームとが相まって、うまく緊張感が出ていたので私は良かったと思いました。
当事者意識を持たせるのも大事ですし、難しいですよね。
- 笠井
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うーん。僕はむしろ全く別のベクトルでこのミニゲームを見ていた。というのも、「牟奄-ムエン-」は自作ゲームフェスを強く意識した作品なんだよね。ミニゲームの導入もその一環なのではないか。ゲーム性を担保させるだけでなく、実況プレイも意識しているように思えた。捜索とか連打とか、いい感じに実況者の味を出せる部分だと思うんだよね。
同じようなところでいえば余白の大きい結末もそうで、プレイヤーに想像を巡らせてもらうこと自体がある種のゲームになっている。この手法はかつての「ひぐらしのなく頃に」を思い出すね。
- M
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なるほど。私はそういう発想がなかったので、素朴にもっとヒントがほしいなーと思いました。さまざまな考察をすることがこのゲームの楽しみ方なんだと思うのですが、物語の全貌が明らかにならないとダメな人にとってはどうしてもスッキリしない。その点では人を選ぶゲームです。
明確な解答がなくても、同じ世界で別のキャラクターが出てくる話とか、違う側面から謎に迫れるような、さらなる展開があったら嬉しいですね。
- suzuki
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笠井さんの観点だと、プレイ時間がコンパクトにまとまっているのも自作ゲームフェスを意識した結果かもしれませんね。
これまでの座談会でも触れましたけど、フリーゲームは短編である必要はありませんが、長編である必要もありません。あまりに長いプレイ時間はプレイヤーにとって参入障壁になりますから、「多くの人にプレイしてもらい、多くの人に考察してもらう」コンセプトであるこの作品は、短編であることが半ば必須だったと思います。
単純に美麗なサウンドとグラフィックだけでゴリ押しした作品だったら結果は変わった
- M
- この作品、1ヶ月で作ったそうなのですよ。さすがに度肝を抜かれました。制作期間の短さも、自作ゲームフェスを焦点に当てたからこそなんでしょうか。
- suzuki
- ではないでしょうか。しかしこれ1ヶ月って……寒気がしますね。何本の栄養ドリンクが消費されていったのでしょうか……。
- 笠井
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あまり想像したくないね……w
しかもこの作品、スタッフ総勢21人で制作されたということなんだけど、僕はむしろそっちの方に驚いた。この人数だからこそ短い制作期間で仕上げられたというのはあると思うのだけど、21人をまとめるだけで相当なマネジメントが必要になる。しかも、今までみてきたようにかなり明確な世界観やコンセプトが存在しているんだよね。大人数で作業しながら、コンセプトを維持し続けるだけでも相当な難易度だと思う。
- M
- よほどのチームワークがないと無理ですよね。元々は別のゲームを作るために集まったチームだと伺っているので、そちらのゲームも気になってきます。
- 笠井
- この作品は、高い実力に裏打ちされた完成度をバックボーンに、自作ゲームフェス用にチューンナップして作り上げられたノベルだと思う。もちろん、自作ゲームフェスを意識したから凄い、という短絡的な発想でノベルスフィア賞に選んだわけではないけれど、例えば、単純に美麗なサウンドとグラフィックだけでゴリ押しした作品だったら結果は変わったかもしれない。
- suzuki
- そうですね。「ノベルゲームがニコニコ時代・自作ゲームフェス時代で生き残るためにはどうすればいいか」ということを考えた作品だとして、今回のノベルスフィア賞や座談会は、そんな状況への応答になっているかもしれませんね。こう、俺たちも一緒に考えるぜ! みたいな。
- M
- 魅力的なノベルゲームがたくさんありましたしね。その中でも、「牟奄-ムエン-」はとりわけ隙のない、ノベルスフィア賞にふさわしい作品だと思いました。受賞おめでとうございます!
- 笠井
- おめでとうございます!
次回はノベルスフィア賞の総括!
今回はここまでとなります。
いかがでしたでしょうか。
次回はこの企画のラストとして、自作ゲームフェス4とノベルスフィア賞の総括を審査員3人で行っていく予定です!
更新は12月26日(金)を予定していますので、お楽しみに!