【自作ゲームフェス2016】ノベルスフィア賞 選考座談会 佳作 前編
- 笠井
- はじまりました、自作ゲームフェス2016座談会!
- suzuki
- さて、今回の自作ゲームフェスでは佳作を過去最大の7本を選出させていただきました。そこで、佳作は前編・後編に分けてお話させていただこうと思います。
- M
- 今回も大変白熱した議論になりました。今回も「特別賞」を設けさせていただきましたが、佳作の授与が多かった経緯と併せて「総評編」でこの辺りお話できればと思っております。
- 笠井
- 前置きはこれぐらいにして、作品の話に入りましょう!
編集部員紹介
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笠井。編集長。
自他ともに認める鍵っ子にして、ノベルゲームに魅せられた男。「ノベルスフィア」を切り盛りする運営力・技術力を併せ持ち、ノベルゲーム愛の心で編集部を取り仕切る。
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M。編集部員その1。
同人・商業問わずノベルゲームを日々読み漁り、豊富なプレイ経験を土台にした評価には定評がある。読者目線を忘れず、作品への没入感を重視する。
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suzuki。編集部員その2。
広く浅く変なものを探しており、現在はノベルゲームの持つ不思議な魅力に興味津々。「ノベルスフィア」ではスクリプトも担当し、構造的な方向からの評価を好む。
実力ある制作者だからこそ、"将棋ミステリー"という複雑なコンセプトを実現できている
- 作品名:
- 千里の棋譜
- PLAY:
- http://www.child-dream.net/shogi/
- 制作者:
- Child-Dream
- 笠井
- 1作目はChild-Dream様の『千里の棋譜』。この作品は将棋に焦点を当てた、意欲的な作品だったね。
- suzuki
- 高橋道雄九段が本人公認で特別出演していたり、将棋連盟でもニュースとして取り上げられたり、将棋界の中でも注目されているみたいですね。
- M
- ストーリーにのせて将棋の世界を垣間見れる"将棋ミステリー"になっています。将棋の普及を目的に、ということですが、素晴らしいコンセプトですよね。思わずプレイしたくなります。
- suzuki
- 絵も端正で、雰囲気にマッチしているのもプレイ意欲を引き立てていいですね。ストーリーも老舗のChild-Dream様らしい硬派で満足感の高いものになっています。
- 笠井
- 一方で、ターゲットの範囲を広げようとするあまり、やや作りが中途半端になってしまっているところはあったと思う。「硬派な将棋ファン」と「将棋初心者」両方ともに楽しめるように作ってあるのだけど、求められる将棋の知識が少しハードに感じた。
- suzuki
- そうですね。かなり敷居を下げてくれているというのはひしひしと感じましたけど、将棋の世界が深すぎるということなんでしょうね。作品のメインターゲットがちょっとボヤけてしまっている印象はありました。"難易度問題"は本当に難しいですね……。
- M
- とはいえ、審査員の中に将棋ファンはいませんでしたが、将棋成分を含めて物語を十分に楽しめる作りになっているのはさすがと思いました。Child-Dream様はほかにも完成度の高いノベルを複数、自作ゲームフェスに出されています。特に『ANGEL WHISPER』は初出が1999年だとは思えない作りに驚かされました。
- 笠井
- 実力ある制作者だからこそ、"将棋ミステリー"という複雑なコンセプトを実現できているのだと思います。完成を心待ちにしています。受賞おめでとうございます!
ノベルゲームへの多層構造的な愛が盛り込まれている
- 作品名:
- あなたに伝わりますように
- PLAY:
- http://goo.gl/CImf8p
- 制作者:
- Tears Lab.
- 笠井
- 次はTears Lab.様の『あなたに伝わりますように』。この作品はsuzukiくん推しが印象的だった。
- suzuki
- はい。ノベルゲーム制作を主軸に、表現することの楽しさみたいなのを優しく伝えてくれる作品です。で、この作品自体がノベルゲーム制作者向けのサンプルスクリプトになっているんですよね。これがこの作品の"仕掛け"になっています。
- M
- この短編がそのままノベルゲーム制作の入門になっているんですよね。短編として起承転結がしっかりまとまった、シンプルながらも心温まるストーリーでした。単なるサンプルにとどまらない読ませるノベルになっています。
- 笠井
- 一方で、サンプルスクリプトであるとかそういう要素を全部取っ払い、読者に向けたひとつの作品として見ると、どうしても物足りなさはあったかな。何かを感じ取るにはボリュームがさすがに足りなかった。
- M
- 作品の性質を考えるとお門違いかもしれませんが、物足りなさといえば、タイトル画面等のデザインが惜しいと感じるところはありました。自分がどの立ち位置にいるかによって評価が変わってくる作品なのかもしれませんね。
- suzuki
- ぼくはコンセプトに沿った、素晴らしいシナリオだったと思います。むしろ余白があるからこそ良いと感じました。仮に星新一ばりの超クオリティで完結する物語だとしたら、物語ばかりが印象に残ってしまう。そうじゃなくて、くすぶっている人が「よし、いっちょ作ってみっか」と思えるような絶妙なバランスにしてあると思いました。
- 笠井
- なるほど、そうすると『あなたに伝わりますように』というタイトルは秀逸かもしれない。
- suzuki
- はい。タイトルからして、ノベルゲームへの多層構造的な愛が盛り込まれていると思います。ここでいう"あなた"はこの作品の"登場人物"はもちろん、この作品を読んでいる"読者"でもあるし"ノベルゲーム制作者"でもある。このサンプルスクリプトを使って作られたノベルの読者も"あなた"の範疇なんですよね。この構造は見事だと思いました。
- M
- ノベルスフィアでも『ノベルスフィアのつかいかた』が対話的に機能を教えてくれたりしますが、この作品のようなものがあるといいなと考えさせられました。受賞おめでとうございます!
平和な日常がドカンとひっくり返る構造は懐かしくも素晴らしかった
- 作品名:
- ホワイトノイズ+狂気タイプ診断
- 本編PLAY:
- https://novelsphere.jp/ns00000110
- 診断PLAY:
- http://inubito.com/analytics/
- 制作者:
- イヌビト
- 笠井
- 今回の最後はイヌビト様の『ホワイトノイズ+狂気タイプ診断』。この作品は"ザ・ノベルゲーム"とも言うべき、重厚長大、正統派ノベルゲームだったね。
- M
- そうですね。題材も古き良き伝奇物になっています。私はこういうジャンルめっちゃ好きです。二人の主人公が交差していくストーリーは読み応えがありますね。
- 笠井
- 物語の展開も「日常とその破壊」っていう、『ひぐらしのなく頃に』などに代表されるオーソドックスなものだったね。平和な日常がドカンとひっくり返る構造は懐かしくも素晴らしかった。しかしながら、この「日常とその破壊」は、どうしても序盤が「日常」というエンタメ的に弱いものになってしまう構造なんだよね。
- M
- 確かに、物語が本格的に動き出すまでの時間がやや長いという印象はありました。
- 笠井
- 弱点まで含めて「正統派ノベルゲーム」とも言えてしまう作品だと思う。この問題への解決として、ノベルスフィアへの移植の際に『犯罪タイプ診断』を追加したのは良い試みだと感じた。
- M
- 心理テストの結果が物語に影響を与える『犯罪タイプ診断』は、プレイ意欲を維持してくれますよね。UIなど総合的なデザインもかっこよくてノベル全体の完成度を高めています。一方で、絵があと一歩惜しかったという印象はあります。
- 笠井
- グラフィックは読者にとって、第一印象になる要素の一つなんだよね。そこが少し弱いというのは残念なところだった。シナリオだけで引っ張れるコンセプトではないときに、その作品の魅力をどうユーザに見せるか。それを考えなければいけないというのは、制作者にとっては厳しい時代ともいえるね……。
- M
- そうですね。とはいえ、満足感のある素晴らしいノベルゲームだったと思います。
- suzuki
- 受賞おめでとうございます!
次回更新は4/18(月)
いかがでしたでしょうか。次回は佳作4作品の座談会をお送りする予定です。
お楽しみに!