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自作ゲームフェス2016

【自作ゲームフェス2016】ノベルスフィア賞 選考座談会 佳作 後編

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笠井
では早速座談会第二回、佳作後半にいきましょう!
M
今回は『恋の筆触分割』『アラクネ』『戯曲の雪 第一幕~無限の従者~』『未来探偵ソラとピヨちゃん』の4作品をみていきます。
suzuki
その他の自作ゲームフェス2016関連記事はこちらからも読めます。では、続きをどうぞ!

編集部員紹介

editor_kasai
笠井。編集長。
自他ともに認める鍵っ子にして、ノベルゲームに魅せられた男。「ノベルスフィア」を切り盛りする運営力・技術力を併せ持ち、ノベルゲーム愛の心で編集部を取り仕切る。
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M。編集部員その1。
同人・商業問わずノベルゲームを日々読み漁り、豊富なプレイ経験を土台にした評価には定評がある。読者目線を忘れず、作品への没入感を重視する。
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suzuki。編集部員その2。
広く浅く変なものを探しており、現在はノベルゲームの持つ不思議な魅力に興味津々。「ノベルスフィア」ではスクリプトも担当し、構造的な方向からの評価を好む。

柔らかで透明感のあるグラフィックとストーリーが、刺激的なコンセプトと絶妙にマッチしている

作品名:
恋の筆触分割
PLAY:
http://koihude.web.fc2.com/event.html
制作者:
恋の筆触分割

笠井
まずは恋の筆触分割様の『恋の筆触分割』。「実在する印象派の画家たちとの恋愛ゲーム」というコンセプトがまず目を引くね。
suzuki
はい。この作品を話す上で外すことができない要素です。ゴッホ、ゴーギャンなどと恋愛できるノベルゲームがあるらしいと聞いたら「なんだなんだ?」となります。この"掴み"は素晴らしいですよね。各ニュースサイトにも紹介されていますし、「知ってもらう、触ってもらう」ということはとにかく第一です。

kasaku2016-4-1

M
"掴み"も素晴らしい作品ですが、プレイしての満足度も高いです。作品自体のクオリティも高く、"色物"で終わらない魅力的な作品にしています。美大生が作ったということもあり、キャラクターや絵画に関する知識・思い入れも本物です。
笠井
トータルデザインが素晴らしいね。柔らかで透明感のあるグラフィックとストーリーが、刺激的なコンセプトと絶妙にマッチしている。
M
画家2人のペアを選んで会話していくことで、主人公と攻略対象だけでなく、グループとしての人間関係が描かれていく構成も良かったです。背景も作品のモチーフである絵画的なデザインで世界観にぴったりですね。

kasaku2016-4-2

suzuki
はい。色物を色物として終わらせないという点では完璧に成功していると思います。逆説的に、一度はじめるとやや刺激に欠けるところは否めなかったです。特に序盤は起伏も少なく、冗長に感じてしまうところもありました。
M
確かに、派手なゲームが好きな人は物足りないと感じてしまうこともあるかもしれませんね。画家という設定も活かされていましたし、丁寧なシナリオで私は良かったと思います。
笠井
クオリティの高さと丁寧な作り込みで、期待を裏切らない作品になっているのは間違いないと思う。
suzuki
その通りですね。受賞おめでとうございます!

居心地が悪いけどホラーに寄り過ぎず、独特の世界観を作っています

作品名:
コワイモン
PLAY:
http://www.freem.ne.jp/win/game/11086
制作者:
アラクネ

suzuki
次はコワイモン様の『アラクネ』です。この作品はともかくデザインが優れていますね。
M
はい。居心地が悪いけどホラーに寄り過ぎず、独特の世界観を作っています。特にずっと表示される背景の雰囲気が抜群に良いですね。写真素材ですがオリジナリティのあるものになっています。

kasaku2016-5-1

笠井
限られた素材の中で不気味さを生み出す工夫が見事にマッチしているね。カラーセンスもいい。一瞬で「あ、あのゲームか」とわかるのは強みだと思う。
suzuki
背景もですが、僕はキャラデザがこの作品の最大の魅力だと思っています。グラフィック・設定ともに、なじみやすく、オリジナリティもあり、なにより生き生きしています。会話の掛け合いがイメージできるんですよね。キャラデザは今回の審査作品の中でもトップクラスだったと思います。
笠井
会話にテンポがあってよかったね。一方、作品全体のテンポに目を向けると改善の余地はあったと思う。アドベンチャー形式のシステムなんだけど、システム上のサポートがほとんどなくて、作業プレイに近い体験になってしまうのは惜しかった。
M
物語を深く楽しむためには周回でプレイする必要があるのですが、億劫になる作りでありました。システムでいえば、マウス操作必須だったりバックログがないのも少し気になります。システムをもう少し作り込むか削るかして、ユーザの手間を少なくすることで、作り手の持っている強みを押し出せるのかと思います。

kasaku2016-5-2

suzuki
そうですね。とはいえ、驚くべきことにこの作者の方、この『アラクネ』が初めての作品みたいなんですよね。試行錯誤の中でこれだけのものを作ることはなかなかできないです。
笠井
作り手の持つ長所がバシバシと伝わってくる作品で、今後にも大きく期待しています。受賞おめでとうございます!

目で見て、耳で聞いて、頭で読み解いて。ノベルゲームの楽しみが詰まっています

作品名:
戯曲の雪 第一幕~無限の従者~
PLAY:
https://novelsphere.jp/ns00000109
制作者:
Theater Maverick

笠井
次はTheater Maverick様の『戯曲の雪 第一幕~無限の従者~』。この作品は前回の『ホワイトノイズ』と同じく、重厚長大な"ザ・ノベルゲーム"に分類できる作品だね。
suzuki
ノベルスフィアで公開されている作品としては、重厚長大なノベルは比較的珍しいのですが、そろっての受賞となりました。

笠井
演出の細やかさが光る作品なのだけど、その演出も作品の地力・作り込みがあってこそだと感じた。『戯曲の雪』というタイトルに相応しい、儚げな雰囲気がとてもいいね。
M
雰囲気が一貫していて、タイトル画面で受ける印象と作品をプレイした後の実感がほぼ変わらないですよね。そういうところから見ても、非常に安定感がある作品ですね。ボイスと動画も雰囲気の形成に貢献しています。
suzuki
冒頭の二人の掛け合いも導入として美しいですよね。設定をほどよく開示しながら、作品の世界に軟着陸させてくれます。Mさんの言う「プレイ前後で印象が変わらない作品」というのはともすれば驚きがない作品になってしまいがちですが、この作品はそうでもなく、きちんと心に残してくれるものがあります。これはやっぱり、ユーザの満足を考えた作り込みがあってこそだと思います。
笠井
ストーリー、BGM、SE、グラフィック、演出、システム、どこを切り取っても端整で調和が取れているんだよね。だから簡単に物語に入り込んでいける。作る側にとっては本当に大変なことだと思うけど、別世界そのままを表現するようなノベルをプレイする上で、こうした物量は大変嬉しい。
M
目で見て、耳で聞いて、頭で読み解いて。ノベルゲームの楽しみが詰まっていますよね。

kasaku2016-6-1

suzuki
システムについても、演出の軽量化のスイッチやシーン遷移、メニュー画面でのモノローグ表示など作り込まれています。O₂ Engineの機能を存分に使ってくれていてありがたい限りです。
M
それだけに、未完成というのが惜しいですね。素晴らしい作品ではあるのだけど、未完結ということで、佳作という形にさせていただきました。
笠井
いやー、完成が本当に待ち遠しいね。
suzuki
受賞おめでとうございます!

"コンセプチュアルなデザイン×本格推理モノ"という独特なポジション、高い完成度

作品名:
未来探偵ソラとピヨちゃん
PLAY:
http://www.freem.ne.jp/win/game/11653
制作者:
フワフワソ

M
最後はフワフワソ様の『未来探偵ソラとピヨちゃん』です。この作品は、近未来的な雰囲気がたまりませんね~! 特に架空の企業のロゴデザインが好きです。
笠井
僕は背景のデザインにセンスがあると思った。トータルデザインが優れているよね。……なんか僕、「トータルデザインいいね!」しか言わない男と化してるな……w でもそれだけ大事なことなんだと思う。手法や雰囲気がチグハグな作品は読み進める中で意識に摩擦を生んでしまう。作品に入り込みにくいんだよね。

kasaku2016-7-1

suzuki
そうですね。その点、この作品はポップでかわいくて、軽快にプレイできるデザインになっています。デザイン単体で見ても優れていますが、ストーリーを進める潤滑油として機能しているんですよね。このマッチは素晴らしいです。
M
はい。ゆるふわな雰囲気に騙されがちですが、ストーリーはかなりしっかりしています。そのギャップがこの作品の魅力の一つですね。
笠井
一方で、コンセプト自体素晴らしいものではあったけど、そのクオリティはもう一歩向上の余地があるかなと思った。これはごてごてした塗りやリアルな絵柄にしてほしいということでは断じてなくて、「のっぺりとしたかわいさ」「割り切りのいいシンプルな背景」をそのままに、クオリティを上げることは可能だと思った。
suzuki
うーん、特別賞の『1bitHeart』の存在がどうしてもデカいですね……。近未来でポップなデザインということで、どうしても比較してしまいました。とはいえ、"コンセプチュアルなデザイン×本格推理モノ"という独特なポジションで高い完成度を誇っているのは間違いないです。
M
今まで触れなかったですが、キャラクターも魅力的です。とにかくピヨちゃんのキャラクターが強烈! 主人公のソラも負けないくらいキャラが立っていて、二人の掛け合いを見ているだけでも楽しいです。エピソードの一つ一つがコンパクトにまとまっていて読みやすいのも良いですね。フリー版では2話までとなっていますが、続きをつい読みたくなります。

kasaku2016-7-2

suzuki
そして興味は製品版へと繋がっていくわけですね。『未来探偵ソラとピヨちゃん』は連作になっているのですが、Webサイトで情報が取得しやすいのはいいですね。
笠井
サイトの更新も細かかったり、作品の入手経路もいろいろあったり、PRがとても丁寧だよね。こういうところからも安心感を与えてくれるのは有難い。Webサイト上で「推理大会」が開催されたり、ミステリとして見て周囲の巻き込み方がうまい。人にオススメしたくなる、魅力的な作品だと思います。
M
受賞おめでとうございます!

次回更新は4/25(月)

いかがでしたでしょうか。次回は優秀賞・特別賞の座談会をお送りする予定です。
お楽しみに!