ノベルスフィア賞 選考座談会 優秀賞・特別賞編
編集部のsuzukiです。「選考座談会」、はじまりました。
今回は佳作5作品について話していきます。
それでは、続きからどうぞ!
編集部員紹介
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笠井。編集長。
自他ともに認める鍵っ子にして、ノベルゲームに魅せられた男。「ノベルスフィア」を切り盛りする運営力・技術力を併せ持ち、ノベルゲーム愛の心で編集部を取り仕切る。
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M。編集部員その1。
同人・商業問わずノベルゲームを日々読み漁り、豊富なプレイ経験を土台にした評価には定評がある。読者目線を忘れず、作品への没入感を重視する。
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suzuki。編集部員その2。
広く浅く変なものを探しており、現在はノベルゲームの持つ不思議な魅力に興味津々。「ノベルスフィア」ではスクリプトも担当し、構造的な方向からの評価を好む。
軽いノリにカモフラージュされているけど、本当に知的な作品
- 作品名:
- PでCなカレ
- PLAY:
- http://0o0o0o0.o0o0.jp/E-T/PC/
- 制作者:
- いみふ めい
- 笠井
- それでは続きということで、やっていきましょうか。優秀賞として今回は2つ選出させていただきましたが、ひとつはいみふ めいさんの『PでCなカレ』です!
- M
- この作品、一見ネタゲーですがストーリーは正統派乙女ゲームで、起承転結がきれいにまとまった良作ですね。EDは演出も相まって、思いがけずホロリとしました。
- suzuki
- 一言でいって、『幼女天使とロリコン紳士』と同系統の作品ですよね。両者はキャッチ―なコンセプトを綺麗にまとめたという点では一致していますが、あちらがゆっくり笑いを感動に塗り替えていく堅実なタイプだったのに対して、この「PでCなカレ」はあの手この手を使って笑いを感動に反転させるトリッキーな作りだったという印象です。
- M
- 各所の作り込みもしっかりしていますね。OPはポップな感じで楽しいですし、UIデザインも作品にマッチしています。メッセージウインドウの横に表示される主人公のグラフィックがコロコロ変化するのも楽しい雰囲気をより強めてくれますね。
- suzuki
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文章にもフフッと笑ってしまう箇所がちりばめられているのですが、力技ではなくエスプリが効いていて良いですね。
一方、欲張りかもしれませんが、ビジュアルのクオリティの面では少し気になりました。全体的にスタイリッシュなデザインなんですが、その方向性ならもう少し洗練させて欲しかったというのはあります。グラフィックも許容範囲ではあるけどパースの崩れなどが気になる絵もありました。
- 笠井
- シナリオについてはどうだろうか。一発ネタを形にしたという点で優れたストーリーだったけれど、ドラマの強度自体はやや平凡な印象を僕はぬぐえなかった。もう少し深く掘り下げられたかなと思ってしまうんだよね。
- suzuki
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うーん、僕はむしろ、分かりやすい話の筋こそ必要だったのだと思います。というのも、この『PでCなカレ』はすごくノベルゲーム初心者に優しい作品だと思うんですよね。軽めなコンセプト、適度な笑い要素、それらを包括しつつ昇華されるシナリオ――ノベルゲームの良さをギュっと詰め込んだライトな仕上がりになっています。
ノベルゲームは確かに素晴らしい形態で、愛するファンがたくさんいるのも事実ですが、一つの“区切り”を迎えてしまっているのは疑えないです。そんな中で『PでCなカレ』は、ノベルゲームを知らない中高生たちに手放しでオススメできるなと思いました。
- M
- なるほど。その流れでいうと、立ち絵の活用の仕方も挙げておきたいです。「まっくん」はノートパソコンの立ち絵?なんですけど、立ち絵のバリエーションが工夫されててクスッときます。角度や開いたり閉じたりだけでもまっくんの感情がこちらに伝わってくるのって実は結構すごいですよね。立ち絵の変化って他の媒体では伝えられないノベルゲームならではの魅力なんだなと、思いがけない角度からですが再確認できました。
- 笠井
- 一枚絵の使い方もうまいよね。コンセプトを見失わずにまとめ上げるのって口で言うほど簡単ではないけれど、この作品は様々なところでコンセプトが活きている。改めて考えると、軽いノリにカモフラージュされているけど本当に知的な作品といえるね。
- suzuki
- 確かに、知的な作品というのはしっくりきますね。受賞おめでとうございます!
読み進めるのが楽しすぎて最後には名残惜しくなる
- 作品名:
- CyberRebeat -The Fifth Domain of Warfare-
- PLAY:
- http://www.ennach.sakura.ne.jp/CyberRebeat/
- 制作者:
- E.N.Nach
- 笠井
- 次はE.N.Nachさんの『CyberRebeat -The Fifth Domain of Warfare-』です。受賞おめでとうございます!
- suzuki
- おめでとうございます! タブレットでメッセージ履歴が読めなかったり、Enterキーなどで読み進められないなど、操作性に改善の余地がありましたが、それを吹き飛ばすぐらい出来が良いノベルゲームでした。
- 笠井
- まずWebサイトからいって素晴らしいね。Webサイトを開いたところから、物語への期待感がグッと高まる。前回の大賞である『牟奄-ムエン-』も高クオリティなWebサイトの話をしたけれど、どんな気持ちでプレイを始めさせるかをコントロールするというのはとても大事だと思う。
- suzuki
- 映画って、パッケージ裏やCMなどに期待感を煽られるところからその作品への没入が始まりますよね。それと同じように、作品自体を洗練させるだけでなくどういう作品かを魅力的に伝えられるかで、作品の魅力を底上げすることができると思います。
- M
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ゲームもWebサイトの雰囲気そのままでしたよね。ハッキング+陰謀論という題材が中二的な感性をくすぐるので、プレイ前から期待が高まりました。私と同様、ノベルゲームファンの中でもアングラっぽい作品を好む方は一定数いると思いますし、ツボに入る方にはたまらない作品だと思います。
序盤にややクセがあるので、そこでプレイをやめてしまう人が出てきそうなのが少し残念ですね。
- suzuki
- 和泉という分かりやすいキャラクターが導入部分をけん引する作りですが、欲を言えば序盤にもう少し強い引きがあるといいかなと思いました。乱暴な言い方ですが、はじめさえ面白ければ人は大体最後までプレイします。フリー作品としてはやや長い物語ですし、少しもったいないなとは思いました。
- 笠井
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しかし、以降のストーリーはピカイチというしかないね。コンセプトは斬新ではないけど分かりやすく引き付ける。シナリオは重厚で熱い。何より、キャラクターも魅力的でいいね。Webサイトのファーストビューにも使われているミサのビジュアルは文句ないし、サラの淡泊な語り口もクセになる。
読み進めるのが楽しすぎて最後には名残惜しくなるという気分に久々に浸れた。陶酔できるほど物語に没入したのは、僕は今回この作品だけだったかもしれない。
- M
- そうですね。特にキャラクターが出揃った中盤からは一気に進めるしかなかったです。2nd OPから終盤の展開は本当に熱い! また、ムービーがどれも素敵で、EDで余韻に浸った後、OPムービーを再度見たくなってしまいました。
- suzuki
- 通常演出は控えめですが、要所にムービーが自然に挟まれていて気持ちを盛り立ててくれるのもいいですね。全編に渡って100%の力を出し切ろうとするのは、最も致命的な落とし穴の一つでもあります。その意味で、演出ムービーのクオリティと挿入のタイミングは、この作品のペース配分がうまい一例だと思う。
- M
- しかしこれだけの作品なのですが販促ポイントが少ないというのはもったいないですよね…。『Campus Notes』のときにも販促について触れましたが、作品をどうプッシュしていくかは、業界全体で考えないといけないことかもしれませんね。
- suzuki
- 商業含めて、ノベルゲーム全体に通じる問題でもありますね。この作品、以前発表していたものをフリー公開化したものなんですけど、恥ずかしながら僕はこの自作ゲームフェスで初めてこの作品を知りました。
- 笠井
- ノベルスフィア賞やこの座談会が知ることの一助になってくれるといいのだけどね…。ぜひ『CyberRebeat』もプレイしてほしいと思います!
ドキドキとワクワクの相互作用が新感覚
- 作品名:
- マヂヤミ彼女
- PLAY:
- https://itunes.apple.com/jp/app/mi-jieki-tuo-chugemu-madjiyami/id683945916?mt=8
- 制作者:
- Mio Yamazaki
- 笠井
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さて、最後に特別賞のMio Yamazakiさんの『マヂヤミ彼女』について話していきたいと思います。
この作品、基本的に脱出ゲームとして分類されるもので、ノベルゲームというジャンルからはやや外れる作品となっています。しかし、作品のクオリティがかなり高く、特にノベルゲームファンの方に触れてもらいたい作品であることもあり、今回「特別賞」という枠を設けてこの「マヂヤミ彼女」に贈らせていただきました。
- suzuki
- この作品は大きく前半パートと後半パートに分かれます。後半パートは純然たる脱出ゲームでノベルスフィア賞で扱うようなものではないのですが、前半パートはかなりノベルゲーム的なんですよね。なので基本的にはこの部分をみていきたいなと思っています。
- 笠井
- 前半パートは、「マヂヤミ彼女」が浮気を疑って彼氏のスマホを弄るという内容になっているのだけど、このコンセプトはかなり良いね。浮気ドラマをそのままアプリにするという発想はなかなかできない。
- M
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思わずインストールしたくなりますよね。架空のスマホUIも細部の作り込みがすごくて、本当に人の携帯を触っている感覚になりました。他人のケータイを覗く背徳感を堪能できますよ(笑)
「人の携帯を弄るドキドキ」と「推理を進めるワクワク」を同時に味わうというのは贅沢ですね。
- suzuki
- その通りですね。アドベンチャーゲームとしての出来が良いことが魅力を倍増させています。「人の携帯を弄るドキドキ」を演出するだけでも相当の手間がかかると思うんですが、彼女が疑惑を深め謎を解明していく過程も見事です。ドキドキとワクワクの相互作用が新感覚で、良質の物語体験ができます。
- 笠井
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モノローグのさりげない挿入の仕方も素晴らしいね。
ネタの強さといい、わかりやすさといい、コミュニケーション時代に特化したゲームとして本当にできている。コミュニケーション時代のゲームというと、ゲーム中からツイートできるとかGPSと連動するとか、技術コンセプト先行の試みになりがちで、そういう作品も今回エントリされていたけど、本作のバランス感覚こそがコミュニケーション時代のゲームづくりに必要なものなのかもしれないと感じた。
- M
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普段ノベルゲームに浸っている人にこそ触ってほしいですよね。「アドベンチャーゲームはいまこんなことになっているのか!」と衝撃を受ける人も多いと思います。
ネタバレになるので詳しくは避けますが、最後の最後、EDからの展開も作品の締めとしてある意味完璧で、作者の才能を感じざるを得ませんでした。
- suzuki
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いやーアバンギャルドでしたね……!
途中の脱出ゲーム部分は難易度も高く手間取るかもしれませんが、ぜひ最後までプレイしてほしいです。
- 笠井
- そうだね。ノベルゲーム作りのヒントが詰まっている作品だと思います。素晴らしいゲームをありがとうございました!
次回更新は8/21(金)
いかがでしたでしょうか。次回はいよいよノベルスフィア賞「雨雲」の座談会をお送りする予定です。
お楽しみに!