【自作ゲームフェス2016】ノベルスフィア賞 選考座談会 総評編
- 笠井
- それでは最後、総評編として、今回のノベルスフィア賞選考全体の話をしていきましょうか。
- M
- 今回の議論も白熱しましたね。全投稿数に対して、審査対象作品は42作品、これも前回・前々回と比較してもほぼ横ばいで、依然としてノベルゲームは一大ジャンルとして存在しています。
- suzuki
- そうですね。では続きからどうぞ!
編集部員紹介
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笠井。編集長。
自他ともに認める鍵っ子にして、ノベルゲームに魅せられた男。「ノベルスフィア」を切り盛りする運営力・技術力を併せ持ち、ノベルゲーム愛の心で編集部を取り仕切る。
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M。編集部員その1。
同人・商業問わずノベルゲームを日々読み漁り、豊富なプレイ経験を土台にした評価には定評がある。読者目線を忘れず、作品への没入感を重視する。
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suzuki。編集部員その2。
広く浅く変なものを探しており、現在はノベルゲームの持つ不思議な魅力に興味津々。「ノベルスフィア」ではスクリプトも担当し、構造的な方向からの評価を好む。
間違いなく今までで一番、揺れました
- suzuki
- 「白熱した議論」って毎回言っていますけど、嘘偽りなく、毎回話には熱がこもります。特に今回の選考は、間違いなく今までで一番揺れました。推す作品が三者三様で、一回寝かそうということで日を改めたりしましたね。
- 笠井
- 具体的に名前を挙げてしまうけれど、大賞候補作として『マキシマムデイズ』『1bitHeart』『W-Standard,Wonderland』が挙げられて揺れたね。今までの座談会で話してきた通り、それぞれに強みがあって魅力的な作品だったのだけど、同時に推しづらい要素も持っていたんだよね。最終的には「熱さ」そのものをテーマに据えそれを描き切った『マキシマムデイズ』を選出して、納得の大賞だとは思うけれど、結論が出るまでに時間はかかったね。
- M
- それだけ今回、作品の質が拮抗していたということだと思います。大賞も揺れましたけど、実は佳作候補作品も同じような情勢で、こちらも長くかかりました。佳作を過去最大の7作品、優秀賞を過去最少の1作品としたのもこの辺りの事情によっています。
「ノベルゲーム愛」を感じる作品群だった
- 笠井
- 今回は全体として、「いわゆるノベルゲーム」らしい作品が多い印象だった。大賞の『マキシマムデイズ』もそうだし、優秀賞の『W-Standard,Wonderland』、佳作の『恋の筆触分割』『戯曲の雪 第一幕~無限の従者~』『ホワイトノイズ + 狂気タイプ診断』など、受賞作にも古典的な体裁のノベルゲームが多いね。
- suzuki
- こういう体裁のノベルゲームは、前回や前々回も少ないという感じはしないですけど、今回は特に印象的でした。
- 笠井
- その意味で「ノベルゲーム愛」を感じる作品群だったといえるね。これは実は重要な指摘で、とりわけ古典的なノベルゲームは、存続が難しい状態になりつつあると考えていたんだよね。でも今回の投稿作品を見て、「まだまだ元気だぞ」という熱量を感じた。特に『マキシマムデイズ』は、その勢いを強く感じたね。
- M
- そうですね。『マキシマムデイズ』はサークル処女作ですし、『アラクネ』も初めての作品みたいなんですよね。こういう素敵な作品を創れる人たちが新しく登場してくるというのは、とてもうれしいことです。
- suzuki
- とはいえ、古典的ノベルゲームが主要な作品群だったということは、逆にいえば、既存のノベルゲームの枠を壊すような新機軸を帯びた作品は少なかったともいえますね。
- 笠井
- その意味で、今回どうしても「驚き」というところで物足りなさは感じてしまったかな。もちろん、古典的なノベルゲームの体裁だとダメということではないので、そこは誤解されたくはないけれど。
- suzuki
- そうですね。ノベルゲームは短いながらも歴史があって、洗練されてきたジャンル。だから安易にノベルゲームの枠から外れた作品を作ろうとしても、中途半端なものになってしまうと思います。
- 笠井
-
一言でいえば、「実験してほしい」と思う。一番ノベルゲームが勢いあった時って、もはや業界全体が巨大な実験室のような状態だったんだよね。ノベルゲームの可能性はそのときに検証され尽くしたという意見もあるけど、ぼくは全くそう思わない。
今回でいえば、『マキシマムデイズ』ではギャグとシリアスの二項対立を軸に物語が進行するけれど、ぼくは「ギャグ」という切り口に改めて可能性を感じた。ド定番だけどまだまだ掘り下げられると思ったんだよね。
- M
- 「1bitHeart」も決して特別新しいことはしていないんですよね。でも、プレイを始めた瞬間から、グッと引き込まれる"新しさ"を感じます。
- suzuki
-
掘り下げられる、というところでは、ぼくは「ライトさ」が重要なキーワードだと思っています。ノベルゲームってフルプライスのPCゲームを中心に発展したこともあって、歴史的・業界構造的にまだ全然、「気軽さ」を掘り切っていないと思うんですよね。
海外でノベルゲーム的なものを探してみると、「Lifeline」「DEVICE 6」など、ライトに、そして今風にノベルゲームを楽しめるようなコンセプトのものが見つかります。
- 笠井
- 日本でも、G.Gear.inc様の『僕の彼女は浮気なんかしない』とか、すごくライトにプレイできるように作られているよね。こういうゲームデザインは素晴らしいなと思う。
商業作品にはできないような、やりたいことを詰め込んだ「驚き」を
- M
- キャラクターの性格などを見せる装置として、ソシャゲの中にノベルゲームが組み込まれるのはよく見ますが、「ライトさ」というのはそれだけではないと思います。PCに限らず、ブラウザやアプリなどプレイ環境も自由に選べるようになってきて、その媒体ならではの特徴が活かされた作品をもっと見たいですね。
- suzuki
- 『あなたに伝わりますように』は短い作品ながらも心温まるシナリオで、ゲーム制作への道筋にもなっている点でも特徴的です。受賞作以外でも、millchan's game さんの『その他のお話』は絵本の朗読という概念を組み合わせて味わいのある作品に仕上がっていたりしますね。
- 笠井
- ウェブサイトと連動する『Angel Whisper』のような作品も、1999年初出とは思えない仕掛けだったね。同じ制作者である『千里の棋譜』の将棋ミステリーというのも、ノベルゲームだからこそできる物語として成立しているね。
- M
- ノベルゲームは一人でその世界に浸る楽しみ方が一般的で、実況にはそこまで向かないかもしれません。でも一方で、『W-Standard,Wonderland』や『未来探偵ソラとピヨちゃん』のように誰かと語り合うことでその作品をより深く味わえる作品もあって、『ひぐらしのなく頃に』で盛り上がったような、交流する楽しみ方もまだまだ魅力的だと思っています。
- 笠井
- これは月並みな言い方だけど、まだまだノベルゲームにはさまざまな可能性が宿っていると思う。組み合わせの妙、得意分野の一点突破、新システムの導入、斬新なコンセプト。クオリティももちろん大事だけれど、商業作品にはできないような、やりたいことを詰め込んだ「驚き」を見たいなと思っています。
- suzuki
-
そうですね。何気ないところからでも「新しさ」は演出できると思います。
さて、この辺りで今回の自作ゲームフェス2016の座談会も終わりとしたいと思います。今回も長くお付き合いいただきありがとうございました。
- M
- そして、素晴らしい作品を投稿していただいた方々にも改めて。ありがとうございました。次回の自作ゲームフェスも、素晴らしい作品が集まることを楽しみにしています!
- 三人
- ありがとうございました!
『マキシマムデイズ』のプロモーションノベル公開予定
いかがでしたでしょうか。
現在、ノベルスフィア賞の副賞である『マキシマムデイズ』のプロモーションノベルを制作中です。こちらもお楽しみに!