【自作ゲームフェス2016】ノベルスフィア賞 選考座談会 ノベルスフィア賞編
- 笠井
- いよいよ、ノベルスフィア賞『マキシマムデイズ』の座談会になります!
- suzuki
- 過去の受賞作から考えると異色の、ド直球なギャグノベルとなっています。
- M
- それでは、続きからどうぞ!
編集部員紹介
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笠井。編集長。
自他ともに認める鍵っ子にして、ノベルゲームに魅せられた男。「ノベルスフィア」を切り盛りする運営力・技術力を併せ持ち、ノベルゲーム愛の心で編集部を取り仕切る。
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M。編集部員その1。
同人・商業問わずノベルゲームを日々読み漁り、豊富なプレイ経験を土台にした評価には定評がある。読者目線を忘れず、作品への没入感を重視する。
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suzuki。編集部員その2。
広く浅く変なものを探しており、現在はノベルゲームの持つ不思議な魅力に興味津々。「ノベルスフィア」ではスクリプトも担当し、構造的な方向からの評価を好む。
作品そのものに"情熱"が詰まっている
- 作品名:
- マキシマムデイズ
- PLAY:
- http://www.freem.ne.jp/win/game/9500
- 制作者:
- ねおんそふと
- suzuki
- この作品は、一言でいって「熱い」作品でした。ギャグに対する情熱がビシバシ伝わってきます。サブタイトルが「絶対シリアスなんかに負けたりしないギャグADV」というものですが、その表明通りの、素晴らしいギャグADVでした。
- M
- なんというか、「絶対に笑わせてやる!」という強い意志を感じますね。もちろん、勢いだけじゃなくて完成度の高さも一級品です。テンポがよく読みやすい文章、かわいいグラフィック、コロコロと動く演出。パロが強すぎるところはありますが、着実に、堅実に、笑わせてきます。
- 笠井
- 思わず笑ってしまう。しかし、本当にギャグって難しいんだよね。一歩間違うとユーザーを置いていってしまったり、くどいと思われてしまう。ユーザーとの対話・距離感が難しい。その点、この『マキシマムデイズ』はかじ取りが絶妙だったと思う。
- suzuki
- 笑わせるための「隙」みたいなのもうまく使えていますよね。フルボイスなんですけど、モブキャラの喋りが妙に味があったりするんですよね。そこに思わずフフッと笑ってしまったり。そういうところで緩急がつけられていると思います。
- M
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メイン以外のEDのロゴとかが無駄に凝っていてまた笑ってしまいます。力入れるのそこなんだ!っていう。プレイする際はぜひ全ED見てもらいたいです。
緩急といえば、ヒロインは見た目はすごく可愛らしいのに、雌豚とか自称しちゃったりギャップのある発言で親しみやすいキャラになっていますよね。
- 笠井
- 六花かわいいよね。「女の子がかわいい」って、ド直球でアホみたいな発言だけど、それゆえにとても重要。特にこの作品みたいに気軽にプレイするユーザが多いものだと、大黒柱・生命線とすらいえると思う。
- suzuki
- 確かに、ドタバタギャグにとってキャラの魅力はすごく大事ですよね。主人公・七耶や悪友・太九郎などの男キャラクターも、それぞれ活き活きと描かれています。
- M
- 演出も細やかで楽しいですよね。ギャグのために書き下ろしの絵や音に物量を割いている分、普段の立ち絵のパターンはそれほど多くありません。しかし、コミカルに動かしてみせたり、グレースケールにしたり、漫符を使ってみたりして、テンポを維持するようにしています。
- 笠井
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こういった丁寧な作り込みがあるからこそギャグが活きるし、僕たちは"情熱"を感じるんだよね。いくら作り手が情熱を持っていても、白紙のコピー用紙を見せられてもそれを感じ取ることはできない。
この『マキシマムデイズ』は、作品そのものに"情熱"が詰まっているといえるね。
ギャグがそのままコンセプトとして組み込まれている
- 笠井
- 今まで見てきたように『マキシマムデイズ』といえばギャグなんだけど、このギャグがそのままコンセプトとして組み込まれているのは実に良いね。
- M
- はい。サブタイトルが秀逸ですよね。ド直球でどんな内容なのかプレイ前にすぐ判断でき、その期待を裏切りません。前編と完結作を分けたことで、ギャップを想像させつつも期待感を煽る作りになっているのもうまいです。ギャグだけでなくシリアスも楽しめ、両者が補完しあって上質なエンタメに仕上がっています。
- suzuki
- 完結作にあたる『マキシマムデイズ~The Final Chapter~』のサブタイトル「理不尽なシリアスから君と笑顔を取り戻すギャグADV」も最高に熱いですよね。明確に"シリアス"と"ギャグ"の対立構造が打ち出されています。この構図自体は『銀魂』など他作品にもよく見られますけど、ノベルゲームとしては異色作だと思います。
- 笠井
- 「ノベルゲーム×ギャグ」というのは、実は連綿と歴史のある試みなんだよね。僕が初めて接したギャグADVはLeaf『雫』のおまけシナリオなのだけど、『家族計画』とかは中盤はほとんどギャグだし、『CLANNAD』や『リトルバスターズ!』を生み出したKeyの麻枝さんもギャグへのこだわりは強い。
- suzuki
- なるほど。いま挙げられたような作品や作家は、どちらかといえばシリアス寄り、"社会派"や"泣き"を主軸にしているイメージですが、ギャグが重要なエッセンスになっているんですね。スイカに塩をかけると甘いみたいな。
- M
- ノベルゲームで「泣かせる」っていうのはアニメなどを巻き込んで大きな流行になりましたけど、もしかしたら「笑わせる」っていうのは、まだまだ掘り下げられるのかもしれませんね。
まさしく、「王道」なんだなと思いました
- suzuki
- ともかく、この作品は「ああ、ノベルゲームやっぱりすげぇぜ!!」っていう気分にさせてくれるんですよね。その意味で、すごくノベルゲームらしいノベルゲームなんだなと感じました。
- M
- そうですね。過去のノベルスフィア賞である『牟奄-ムエン-』『雨雲』がノベルゲームの新たな可能性を見せてくれたとするなら、『マキシマムデイズ』はノベルゲームの持つ本来の魅力を存分に発揮した作品だと感じました。
- 笠井
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そうだね。笑いを主軸に置いて、そこに青春の匂いやシリアスな暴力を組み立て、感動を与えてくれる。その「コンセプト」を、高いクオリティを維持する「そつのなさ」で作り上げたノベルゲームだった。
パロ強めのギャグを主軸にする、という点では特殊だけれど、やろうとしていることはとにかく王道なんだよね。もしかするととにかく王道で攻め、「そつのなさ」と「コンセプト」でノベルスフィア賞を授賞した初めてのケースかもしれない。
- M
- そうですね。後半のストーリー展開は、ともすれば予想通りで驚きが少ないと感じてしまうところです。ですが、この作品は圧倒的にそれが期待されているんですよね。だからそのままをゴリ押しても満足できる。まさしく、「王道」なんだなと思いました。
- suzuki
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もう「王道で突っ切る」ところまで含めてコンセプトなんですよね。「そこにシビれる! あこがれるゥ!」って気持ちです(笑)
気軽に始められていつの間にかのめり込んでいる、そんな素敵な作品です。
- 笠井
- ぜひ色んな方にこの"熱さ"に触れてほしいですね。受賞、おめでとうございます!
次回更新は5/16(月)
いかがでしたでしょうか。次回は自作ゲームフェス2016の総括的なお話をする総評座談会をお送りする予定です。お楽しみに!