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自作ゲームフェス5

ノベルスフィア賞 全件レビュー 後編

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編集部のsuzukiです。
お待たせいたしました…すみません。全件レビュー後編になります! ノベルスフィア賞の選考対象作品をすべてレビューしていきます。

ちなみに前編はこちらになります。

(順不同)

クリエイター・ユーザー両者にとって参考となるレビューを心がけましたので、ぜひ自分の気になっている作品以外もみてみてください。
それでは、続きからどうぞ!

真・丹下学園物語「本章」

PLAY:
http://www.freem.ne.jp/win/game/8605
制作者:
ゆるいゲーム開発部



長編学園バトルノベル。題材は王道といっていいと思います。
サウンド、グラフィック、エンジンを自作しておりクオリティも標準以上で素晴らしいです。シナリオも少年漫画的な熱いものになっています。台詞回しやシーン進行がやや古風なきらいもありますが、好きな人には刺さるためそれほど問題ではないと感じました。独自エンジンですが、Win10で起動できなかったり、エフェクトが重かったりとやや難があります。ところどころに凝ったエフェクトはありましたが基本的にはノベルゲームらしいシステムだったため、独自エンジンを使用するメリットはそれほどないように感じました。
全体として制作に対する熱意を感じます。積極的に制作過程をブログなどで公開していくことで読者と一体感を出していくのも良い手法だと思いました。

解決!ロリ探偵 ~パンツ編~

PLAY:
http://cocodoco.chu.jp/game/loli/
制作者:
ここどこ



消えたパンツをロリロリな探偵が見つけ出す短編コメディ。
テンションで乗り切ろうというテンポ重視の展開は小気味良いです。ジャジーな楽曲選択もうまく作用して、テンポの良さを引き立てています。オチはノリ重視ということもあり予想できてしまいましたが大きな問題ではなく最後まで楽しめました。
コメディとしてうまく出来てはいましたが、もっとディテールを詰めることはできたのではないかと思います。画面に動きが少なく、テキストでやろうとしているテンポに全体が追いついていない印象でした。一枚絵が少なくても、立ち絵を動かす、カットインを挿入する、場面を変える(≒背景を変える)などの手法で動きを出すと作品全体によりまとまりができていたかと思います。
また、このような息抜きがてら気軽に遊ぶことを想定した作品は、ブラウザやスマホ上で遊べるなどプレイ環境に気を遣うとユーザの需要により応えられるかと思います。

屋人 okujin

PLAY:
http://sousakuikka.blogspot.jp/2015/01/okujin.html
制作者:
十津川



「屋人」という存在を軸にした中編ホラー。
文章・雰囲気は悪くなく、途中挟まれる演出用の選択肢も狙った効果が出ていると思います。
画面構成はノベルゲーム黎明期を思わせるシンプルなもので、味があるものの退屈な印象は拭えません。
また、いわゆる「怖い話」としてみると、話の作り方は導入も盛り上げも上手ですが、小分けにするような作品でもないので、「序章」という形にするよりは、強引にオチをつけ後味の悪さを残す終わりとしたほうが良かったかもしれません。
※フェス後に公開された「ver 1.02」は審査対象外

ななしのおろち 夏 ひとくちお試し版

PLAY:
http://www.freem.ne.jp/win/game/8479
制作者:
義弓くー



ファンタジーホラーノベル。「ひとくちお試し版」とありますが、ボリュームはあり物語としても区切りがついています。
全画面にメッセージが表示される形式ですが、キャラ絵の窓が文書欄に表示される形式となっています。はじめはやや違和感がありましたが、メッセージの殺風景さを軽減できていると思います。グラフィック・デザインがもう少ししっかりしているとより映えるのではないかと感じました。途中途中で挟まれるホラー演出は雰囲気を出していてプレイへのモチベーションを喚起させます。
シナリオはやや散漫な印象で、もう少しコンパクトにやりたいことをまとめるとより親しみやすい作品になるかと思います。

ある3人の男の話

PLAY:
http://www.freem.ne.jp/win/game/8506
制作者:
カンナ



「血染めの花」番外編に当たるノベル。今回「血染めの花」「ヤンホモ兄に愛されすぎて友達ができない!」を考慮しない形での評価とさせていただきました。
絵のクオリティは高く、安心感があります。その他の背景やUI、楽曲も悪くありません。文章も安定しています。細かいところではありますが、画面のアスペクト比は16:9とした方がモダンな印象になるかと思います。
前作をプレイしているとキャラクターへの思い入れがある分深く感じ入るところもありますが、作品単体として見たときには相対的に印象は弱くなります。
全体としてノベル制作における安定感やそつのなさを感じます。「血染めの花」は人気も高いですが長大な作品で、連作ものは自作ゲームフェスにはやや不向きだと考えられます。制作者の方の創作物を手軽に体験できるものがあると、「血染めの花」へのアクセスもしやすくなると思いました。

粉の町

PLAY:
http://www.freem.ne.jp/win/game/8616
制作者:
ミルチァンゲーム



全件レビュー前編でも触れた「夢…消さないで、砦。」と同種の詩+朗読の異色作。
クオリティの高い詩・グラフィック・朗読は健在で、特に詩の特別な味わいは大きな魅力であり強味です。一方、ボリュームの少なさも引き継いでしまっており、物足りなさは拭えません。またストーリー上仕方ないところもありますが、グラフィックがセピア調に統一されているのが少しもったいない印象でした。
朗読がノベルの雰囲気を豊かにするというのは面白いことなので、本作のような形式を掘り下げるだけでなく、他のノベルゲームにも応用できる可能性を感じました。

Memory of bond

PLAY:
http://www.freem.ne.jp/win/game/3728
制作者:
克樹



女性向け中世ファンタジーノベル。
立ち絵、画面構成、スチル、ボイスのクオリティは標準以上です。背景に関しては写真であることは問題はないものの、ブランドロゴなどが表示されているのが少々気になりました。演出も吉里吉里の標準機能が過不足なく使われています。
シナリオに関しても文章力は標準以上で筋も悪くないのですが、世界観の設定を含めてオリジナリティが薄く、物足りない印象でした。確かに純粋に「オリジナル」な作品というものは存在しませんが、既視感を軽減し独自性を演出することは可能だと思います。
完成度という点で、佳作に近いポジションです。あと一歩、ユーザが思わずプレイしたくなる、プレイを続けたくなるような仕掛けがあるとより魅力的なものになるかと思います。

神無月の夜

PLAY:
http://www.freem.ne.jp/win/game/8860
制作者:
虎ノ門64



学園探索型アドベンチャー。
UIデザイン・立ち絵・背景は今一歩のところがありますが、誠実に作られた印象を受けます。シナリオにも熱意は感じますが、不自然な日本語がどうしても気になります。楽曲の選択にはセンスを感じます。ストーリーに関しては本筋が始まるまでが冗長で、ダレがちです。システムに関していえば、マップ選択時に入力がリセットされるなど不安定なところがあるほか、探索時にセーブができない点に不便さを感じました。
全体として粗削りな印象は拭えませんが、創作欲求のほとばしりのようなものを感じます。制作者自らが楽しめるという視点も大事ですが、ユーザを意識することも重要です。他の作品を参考にしながら、減点対象となる要素を少なくしていくと良いかと思います。

奇奇怪怪コイ絵巻

PLAY:
http://www.freem.ne.jp/win/game/8913
制作者:
ミシェ☆



和風妖怪おバカアドベンチャーゲーム。ノリ・テンポ重視のしっかりした構成となっています。
キャラクターは一人一人しっかり作り込まれており生き生きとしています。特に主人公のキャラ立ちの加減がちょうどよく、ストーリーを進めるのが楽しくなってきます。シナリオも起承転結がしっかりしておりストレスなく読めます。
「和風」を意識したグラフィックは、雰囲気は出ているのですが、どこか昔のゲームを想起させ「そつのなさ」を損なわせてしまってもいます。
また、システム面には不満が残ります。特にバックログと選択肢表示時のセーブは多くのユーザが望む機能なので、これらが実装されていればより快適にプレイできます。
ミニゲームはノベルゲームにおいてテンポを悪くしがちな「鬼門要素」ですが、この作品においてはゲーム自体の雰囲気とマッチしており気になりません。総じて、ユーザを楽しませることがよく意識された作品となっています。

スキトキメキトキス

PLAY:
http://www.freem.ne.jp/win/game/9103
制作者:
たてわき&長月



ヤンデレ百合短編ノベル。
グラフィックは標準以上です。UIデザインなど細かいところにも気が配られていますが、ドロップシャドウによる縁取りはデザインと調和していないかなと感じました。シナリオもよく出来ています。はじめ主人公が違和感を持ち、それは的中するが、物語の最後には——という起承転結のしっかりした展開がコンパクトにまとまっており、ヤンデレモノとしてのツボは押さえているといえます。タイトル名も初見のキャッチーさがありながら味わいのあるものになっています。ヤンデレ時のグラフィック上のギャップをもう少し強めにすると、ユーザのニーズに応えられるかもしれません。
総じて完成度はかなり高いですが、「記憶喪失」「かわいらしい絵柄」「かわいいキャラが実は」というのはいずれもヤンデレモノの様式美であるため、驚きという観点からすると少し弱いところではあります。この点がもう一歩深まればより魅力的なものになるかと思います。

デッドロック

PLAY:
http://ludens.tokyo/deadlock/
制作者:
藤井カスカ



デザイン性が高く、ソフト起動時からプレイまでの流れがスムーズでストレスのないものとなっています。背景は写真ですが、加工方法にもこだわりを感じます。ヒロインの立ち絵もかわいくて良いです。文字を使った演出は、シャフトが想起されすぎるきらいはありますが、画面効果として十分に機能していると思います。一方で再生されるサウンドが少なくもったいない印象があります。本作の趣旨に鑑みて、環境音を入れるなどの工夫はできたかもしれません。
また、演出面では緩急がつけられているとより映えるかと思います。特に動きのあるシーンでも淡々と画面が進行し、臨場感が少ない印象でした。シナリオについては、ミステリー調の話であるにもかかわらずオチが読めてしまうのがもったいなかったです。クオリティの高いデザインは強みなので、もう少しシナリオをコンパクトにして演出をリッチにし、プレイ体験を濃密にするといいかと思いました。

春のうらら

PLAY:
http://www.vector.co.jp/soft/winnt/amuse/se506549.html
制作者:
SEAWEST



18歳になると「大人」になるための脳外科手術を受ける世界の、17歳から18歳になるまでの少年の話、その体験版になります。
設定は面白いです。手術日を誕生日としたことで徐々に周りの人間が大人になっていく展開は巧みですし、「季節」という要素を使ってセンチメンタルな雰囲気をまとわせることにも成功していると思います。また、カレンダーを使った章移動と誕生日表示のシステムは、物語の設定とマッチしており良いと思います。
一方、体験版として見ると読後感もあまり強くなく、次に読み進むためのフックが弱い印象でした。また、演出には気を遣っている印象を受けましたが、グラフィックに関しては改善の余地があるかと感じました。

トシカン~都市伝説観測委員会~

PLAY:
http://www.freem.ne.jp/win/game/9126
制作者:
銀次



都市伝説を観測する団体を軸にしたオムニバス風の中編ノベル。
話を広げることも深めることもできる魅力的な設定が用意されています。文章力も安定しており、各ストーリーはコンパクトにまとまっています。一方で、シナリオ運びがやや淡々としており世界観に入っていきづらいところがありました。確かに“トシカン”は「観測するだけ」なのですが、その「もどかしさ」や「葛藤」を物語のうねりと共に体感できると、より印象的なシナリオになると思います。
立ち絵のグラフィックはクオリティも高く、キャラの特徴をとらえたデザインになっています。背景やUIデザインをもう少し凝ったものにして調和を取ると完成度はグッと高まると思います。

あの子

PLAY:
http://www.freem.ne.jp/win/game/1469
制作者:
ゆづきここな



掌編ホラー。
シナリオの筋自体は悪くないのですが、3分ほどで終わり物足りなさは拭えません。写真背景やシンプルなUIは、シナリオが重厚であれば気にならないのですが、シナリオの評価比率が小さいために相対的な減点となってしまっています。
シナリオ上やりたいことは出来ているかと思いますので、グラフィックやサウンド、演出を強化したり、シナリオにもう少し肉付けを施すなど、全体的なプレイの満足度を上げられるとよいかと思います。おまけの分量が多いのですが、ユーザーにとって、おまけは本編に愛着が出てこそ魅力的なものになるので、本編の質を高めればおのずと良い効果が出るかと思います。

REVIVAL RESET

PLAY:
http://www.vector.co.jp/soft/dl/winnt/game/se508328.html
制作者:
ものらす



リアルと連動するゲームを軸に語られる長編ノベルの体験版。
「このノベルゲームをやっている未来のあなたはのめり込んでいます」という触れ込みがあるなど、制作者の自信が垣間見えます。これはノベルゲームに限った話ではありませんが、やはり作品はおずおずと出されるよりも「絶対面白いのでプレイしてください!」と出されたほうが気持ちいいです。
題材がややありふれてはいますが、好奇心をそそられるシナリオです。導入も悪くありませんが、本題に入るまでがやや冗長な印象がありました。バリエーションに富んだ立ち絵も良いです。ただ、全体のデザインについては改善の余地があるかと思います。フォントや行間、画面解像度などから調整してみると良いでしょう。

Hebe-

PLAY:
http://www.freem.ne.jp/win/game/8815
制作者:
そちゃーん



交通事故にまつわるザッピングもの。
シナリオはクリックをためらう場面もあるほどに重いものですが、完成度は高く心に残るものがあります。反面、グラフィックや演出には物足りないところがあり、もったいない印象でした。UIデザイン(フォントの選定など)は改善しやすい箇所ですし、解像度ももう少し高くしてよいかと思います。演出については映画を参考にすると幅が広がるかもしれません。
シナリオの題材とザッピングシステムがマッチしており、重厚なストーリーを引き立てています。ザッピングの仕組みについては、新鮮ではありますが、やや分かりにくい部分もあり、デザインやUIによる視覚的な補助があると良かったです。

Erase Memory if -芽吹海岸編

PLAY:
http://moe-keshi.blog.jp/
制作者:
モルカワ



消しゴムとなって消しゴムと恋愛するネタゲー。
音声認識により主人公のセリフを読みながら進めるシステムになっています。アイディアをきちんと形にする技術は素晴らしいです。
一方、「声を出す」という行為は当事者意識を喚起させるものですが、基本的に決まった台詞を読む進める形になるので、その意味合いが薄くなってしまっています。また発声を強制されるため、わずらわしく感じてしまう部分もあります。発声を求めるのは選択肢や重要なシーンに絞るなどして、音声認識させる意味をもたせるとユーザーがより楽しめる仕組みになるかと思いました。
登場キャラを消しゴムとするのも斬新ではあるのですが、シナリオ上の必然性が薄く、テーマがブレてしまっている印象でした。

残る自作ゲームフェス5関連記事は…

これにて自作ゲームフェス5関連記事は終了しましたが、大賞にあたるノベルスフィア賞を授与させていただいた「雨雲」のプロモーションノベルを現在制作中です。こちらもお楽しみに!