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自作ゲームフェス4

ノベルスフィア賞 選考座談会1 「佳作4作品編」

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編集部のsuzukiです。
さて、「選考座談会」、はじまりました!

なんこれ? という方はこちらをお読みください。
知っているという方も、とりあえず読んでみるかという方も、続きをどうぞ!

編集部員紹介

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笠井。編集長。
自他ともに認める鍵っ子にして、ノベルゲームに魅せられた男。「ノベルスフィア」を切り盛りする運営力・技術力を併せ持ち、ノベルゲーム愛の心で編集部を取り仕切る。
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M。編集部員その1。
同人・商業問わずノベルゲームを日々読み漁り、豊富なプレイ経験を土台にした評価には定評がある。読者目線を忘れず、作品への没入感を重視する。
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suzuki。編集部員その2。
広く浅く変なものを探しており、現在はノベルゲームの持つ不思議な魅力に興味津々。「ノベルスフィア」ではスクリプトも担当し、構造的な方向からの評価を好む。

ビジュアルの瞬発力が素晴らしい

作品名:
西暦2236年
DL:
http://www.freem.ne.jp/win/game/7334
制作者:
Chloro

笠井
では、さっそく佳作の講評に入りましょう!
一作目は、Chloroさん制作の「西暦2236年」です。受賞おめでとうございます!
M
佳作受賞、おめでとうございます!
suzuki
おめでとうございます!
好きな作品です。良かった。
笠井
この作品は、suzukiくんがけっこうプッシュしてたよね。
suzuki
そうですね。こういうアクの強い作品は好きです。こう、“同人”ではなく“インディー”って感じがする作品というか。
プロの真似というより、プロにできないことをやるという意志を感じます。
M
開始してすぐムービーが入るんですけど、ガツンとインパクトがあって一気に惹きつけられます。
背景の加工法も新鮮でしたね。背景にこんな加工するんだ!という驚きがありました。

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suzuki
そう、背景にもインディー精神が溢れてます。画面構成自体は、背景・立ち絵・メッセージという普通のノベルゲームですけど、背景が写真だったり絵だったり、思いっきり加工した写真かと思えば、ほとんど加工してない写真がそのままボンと出てくる。統一感を効果的に破壊しています。
僕はこれで、背景リソースが足りないのを逆手に取って、ひとつの演出に昇華させているように思えた。
笠井
なるほど。
suzuki
しかし惜しい部分もあって、立ち絵がほとんど2Dのキャラクターのままなんですよね。
ここももっとゴッチャにしても良かったと思いました。背景が視覚的にかなり特徴的だったので、徹底的にやったほうが好みでした。
笠井
僕にはそういう見方はなかったけれども、ビジュアルの瞬発力が素晴らしい作品だと思う。選考にあたって制作者さんのサイトも訪ねたんだけど、扉で表示された女の子の絵はもうそれだけでまとまっていて、インパクトがあるね。

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M
最初のムービーだけでなく、OPムービーもすごく好きでしたね~! どこかサイコな雰囲気で、ちょっとこわいのに目が離せなくなって、気づいたらこの世界に引き込まれていました。
ヒロインは謎めいてるし、展開がまったく読めなくて気になるので、メインビジュアルで惹かれた人や独特な世界観が気になる方はプレイして損はないと思います。
笠井
それだけに、シナリオはもう少しシェイプアップできたかな? とは思う。ユーザはプレイを始めた時点で既にかなりこの世界観に引き込まれているはずなので、物語はもっとこう、序盤からぎゅっと圧縮したほうがまとまりがいいし、この絵とムービーならそれができるはず。まだ未完ということもあり、物語はこれからにも期待といった形ですね。

いったい何を見せてくれるんだろう? という期待が膨らむ

作品名:
W-Standard,Wonderland-ダブルスタンダード・ワンダーランド-
DL:
http://www.circletempo.net/WD/trial.html
制作者:
Circletempo

笠井
次の作品はCircletempoさん制作の「W-Standard,Wonderland-ダブルスタンダード・ワンダーランド-」です。
M
これは私がイチオシしているゲームですね。一見、正統派ファンタジーのようなんですけど、プレイしていくと途中でがらっと雰囲気が変わるんです。詳しくはネタバレになっちゃうので語りませんが、完成版はR18というのも頷けます。
相関図からキャラクター同士の関連性を想像したり、ギア(Tips的要素)からキャラクターの別の側面が見えたりと、ストーリーだけでなくキャラクターにも深みがあります。

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笠井
システムの作り込みには脱帽したね。NScripterで作られていると聞いて仰天したw
演出も手が込んでいて、とにかくよく動く印象。Mさんが触れたようなシナリオの大仕掛けと相まって、いったい何を見せてくれるんだろう?という期待が膨らむね。
suzuki
演出という点では、ゲーム世界と現実世界との対比がかなり意識的に作られていて好印象ですね。牧歌的で安心感溢れるゲーム側と、実写を効果的に使った重苦しい印象の現実側。このギャップが一種のサスペンスとして機能していて、読み進める原動力になっています。

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M
予想のつかない展開が好きな人、考察できるゲームが好きな人にオススメの作品です。音楽や効果音もかなり作りこまれてます。音楽とともに雰囲気もまるきり変わりますよ。サウンドモードはぜひチェックしてほしいですね!
笠井
それだけに、未完なのはやっぱり惜しい。もちろん体験版の応募は全然歓迎なのですが、シナリオ全体を選考対象にできないまま評価するのは心残りがあるね。完成版は18禁とのことですが、公開されたら是非ともプレイしたいです。受賞おめでとうございます!

でもどうプレイしてもビジュアルノベルなんですよね

作品名:
瞳の中のアビス
DL:
http://artifacts.xii.jp/
制作者:
ARTIFACTS

笠井
次はARTIFACTSさん制作の「瞳の中のアビス」。
suzuki
これ、私が強烈に気になったのでねじ込みました。というのもこの作品、実は一次選考で選考外となっていたんですね。でも一覧を眺めていて、これは気になるなと。で、プレイしたらやっぱり面白いので。
笠井
どういうところが面白かった?

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suzuki
端的にいって、プラットフォーム選択です。これ、ビジュアルノベルにも関わらずWOLF RPGエディター(※「ウディタ」という略称で親しまれるRPG作成ツール。)で作られているんですね。シナリオも、いかにもRPG然とした2Dキャラが歩き回りながら進行します。画面構成がRPGのそれですから、物語も俯瞰した形で鑑賞することになり、童話的・寓話的な印象になります。
この作品は立ち絵がない。それどころかぱっと見RPGです。でもどうプレイしてもビジュアルノベルなんですよね。
その上で、作品としてキッチリまとめている。「こういうのもビジュアルノベルとして"アリ"なんだ」というのを再認識できてよかったです。
M
短編として完成度の高いストーリーもよかったですよね。静かにぞくっとくるタイプのホラーで、プレイ後ほどよく余韻が残ります。無料作品である以上、プレイ時間は長ければ長いほどいい、ということはないんですよ。支払ったお金という対価でどれだけ長い時間楽しめるか、という側面がなくなるので。その意味で、短編で綺麗に物語がまとまっているというのは、無料作品としての強みになりますね。

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笠井
確かにRPGエディタで作られているのは面白かった。ノベルスフィア賞は一応、ノベルゲームやアドベンチャーゲームのための賞でありたいと思っているので、今回もノベルゲームを抽出するところから選考を始めたわけだけど、いざノベルゲームらしき作品を覗いてみると、ウディタやRPGツクールで作られていた作品があるのは驚きだったね。
suzuki
佳作受賞、おめでとうございます!

正統派ノベルゲームからは一歩抜きんでている

作品名:
渡り鳥の門は遠く sing again
DL:
http://www.freem.ne.jp/win/game/7453
制作者:
Studio F#

笠井
佳作の作品も次で最後です。Studio F#さん制作の「渡り鳥の門は遠く sing again」。これはまっすぐなノベルゲームだという気がした。
M
寄宿舎が舞台の、少年たちの友情を描いたゲームですね。展開が結構重めで、そういうシナリオが好きなタイプの人にはかなり刺さる作品ではないかと。プレイ時間8時間以上の長編シナリオではありますが、「シーンスキップ」機能に加え、「ストーリーマップ」機能でシナリオを俯瞰できるようになっているので、快適にプレイできました。
演出も、どこか映画的な美しさがあります。

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suzuki
とにかく丁寧に作ってありますよね。確かにグラフィックは弱い印象がありますが、安心してプレイできます。
笠井
システムも決して難しいことはしていないけど、まばたきとかカットインとか、丁寧な作り込みを感じる。シナリオは余分な長さを感じさせない展開のまとまり具合がいい。CGの枚数も多いし、ノベルゲームの枠でできることをやりきったストレートさがいい味を出している。とても端整な、これぞノベルゲームという作品だね。
suzuki
「これぞノベルゲーム」というのは、本当にその通りだと思います。でも、実は僕には「ノベルゲームすぎ」て刺さらなかった。分かりやすい驚きとか、動物的な面白さが少なくて、読書体力が他の選考員に比べ少ない僕には苦しかった。
M
なるほど、そういう意見もありますね(笑)
私はシステムの作りこみ度が高く、正統派ノベルゲームからは一歩抜きんでていると感じました。ビジュアルやシナリオがいいゲームはほかにも数あると思いますけど、プレイする側のことを考えてくれているシステムというのは案外多くないと思うので。

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笠井
「プレイする側のことを考える」というのは、簡単なようでいてかなり難しいことだね。分かりやすい驚きを見せることは作品として大事だし、ましてや今回は「自作ゲームフェス」であるわけだから、小さくまとまった作品を出してもしょうがないという話もわかる。ただ、プレイする側のことを考えながら分かりやすい驚きを見せるとなると、途端に制作の難易度は上がる。そこを絶妙なバランスで組み立てていくアプローチは、プロの世界でも「自作ゲームフェス」でも、等しく評価されていいと思うんだよね。
suzuki
こういう正統派作品もある一方で、「西暦2236年」などアクの強い作品があったりで、色々な作品がみられて良かったです。その辺りがノベルスフィア賞の延長をしている理由のひとつですしね。

次回は優秀賞作品! 12月12日(金)予定です

今回はここまでとなります。
いかがでしたでしょうか。

次回は、優秀賞を受賞された「ソラミミ×DIAMOND」「ghostpia」「falling」の選評を行っていきます!
12月12日(金)の更新を予定していますので、お楽しみに!